緑に癒やされる、という経験をしたことはありませんか。近年、緑の癒し効果のメカニズムが、徐々に解明され始めています。人はなぜ緑に癒されるのか。その科学的研究の第一人者、千葉大学大学院の岩崎寛准教授が自身の研究を日本ガーデンセラピー協会のセミナーで解説。驚きの効果が語られました。

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科学的な研究が進む緑の癒し効果

植物の葉
Roxana Bashyrova/Shutterstock.com

緑を見てホッとしたり、美しい自然の風景に癒やされるという感覚は、誰しも経験したことがあるでしょう。実際、東京・六本木にある東京ミッドタウンで行った調査では、95%の人が都市に緑が必要だと答え、そのうちの半数以上が緑に対して癒やし効果を求めているという結果が出ました。

この「癒やされる」という感覚は、これまで体験的なものとして知られてきましたが、緑が人間の心身にどのように働きかけるのか、日本は世界に先駆けて科学的な研究が進んでいるのをご存じでしょうか。

そうした知見を集約し、各専門家を交えてガーデンの有効活用について調査・研究、普及しているのが日本ガーデンセラピー協会です。同会理事を務める千葉大学大学院・園芸学研究科の岩崎寛准教授は、緑が人にどのような効果をもたらし、またその効果を実際の社会にどのように活用できるのか、緑地福祉学の立場から研究を重ねてきました。

緑の大発見! 一斉に血圧を正常化する緑の力

ラベンダー
Oleksandr/Shutterstock.com

岩崎准教授は生理的・心理的実験を経て、緑がもたらす癒しについて科学的な根拠を発見。日本ガーデンセラピー協会のセミナーでその内容について語りました。実験は公園内のラベンダー畑と芝地で実施され、それぞれの場所で被験者に5分間座って休憩してもらった後、血圧や脈拍などを測定し、生理的な変化を検証するというものです。ラベンダーには香りによるリラックス効果がすでに知られていますが、香り以外の「場」としての緑の効果を検証するために、芝地も調査場所としました。被験者を高血圧、正常、低血圧のグループに分け調査を開始したところ、結果は岩崎准教授自身も驚くものでした。

「芝地とラベンダー畑、そのどちらの場所でも、5分間の休憩の後、すべての人の血圧と脈拍が正常値になったのです。つまり高血圧の人は低く、正常値の人はその範囲内に、低血圧の人は維持または上昇する傾向が見られました。特に高血圧のグループは芝地でもラベンダー畑でも血圧が大きく降下し、ラベンダー畑では最高血圧が30mmHgも減少した人がいました」

都市公園
Iakov Kalinin/Shutterstock.com

「通常、血圧の薬は血圧を下げるのみ、上げるのみ、どちらか一方の効果しかありません。ところが、緑は血圧の高い人も、低い人も同時に<正常値にする>という効果を示したのです。人の健康状態は血圧も含めさまざまで、同じ人であっても常に一定ということはありません。それがたった5分間の休憩で、さまざまな健康状態の人が、同時に、皆よい状態になるというこの緑の効果は、正直、想像以上でした。この実験はもう10年以上も前に行ったものですが、それまで私はそんな効果を示す薬を見たことも聞いたこともありませんでしたし、以降もそのような万能薬は存在していません」

もしも緑が血圧を下げる効果しかなかったら、高血圧の人と低血圧の人は一緒に公園へ行けなくなってしまいます。しかし、この実験結果からはマイナスの効果は見られず、全員が「正常値」を示すということがわかりました。緑の療法的効果は一部の健康状態の人だけでなく、幅広く享受できることが証明されたのです。

自己治癒力を高める緑の効能

日本ガーデンセラピー協会セミナー

この結果を受け、岩崎准教授は緑の療法的効果を生物の自然治癒力と関係づけて解説しています。

「なぜ、緑がこんな万能的な効果を示したのか。それは、ホメオスタシスが関係しています。人はさまざまな環境の変化(=ストレス)に対応して、生体内の状態を一定に保って生命を維持しており、この性質を恒常性(ホメオスタシス)と呼びます。恒常性は神経系(自律神経や副交感神経など)、免疫系(抗体)、内分泌系(ホルモン)の3つの系のバランスで保たれており、このバランスが崩れると体に支障が生じます。ここに緑がどのように働くのかというと、恒常性回路に直接影響するのではなく、バランスが崩れる要因であるストレス刺激を緩和し、<元の(よい)状態に戻す>という働きをします。

このことは、植物の生命活動を改めて考えてみれば納得いくものです。生物には本来、自然治癒力というものが備わっています。もちろん、私たち人間にも動物にも。ただし、人間は移動できるうえに脳の発達と引き換えにその能力が他の生物より低くなったと考えられます」

松ヤニ
ヤニを出して切り口から雑菌が入るのを防ぐ。EugenePut/Shutterstock.com

「人は脳の発達により医学や科学を進歩させてきました。そして、人は怪我をしたり、病気になったりした時は病院へ行って治療をします。一方、植物は病害虫の被害にあってもその場から動くことができません。そこで、ヤニを出して自らを修復したり、毒性のある成分を体内に持つことで病害虫から身を守ったりしています。植物は動けない分、自己治癒力が人間よりはるかに高いと考えられ、私たちは今までもその力を薬や食品として体内に取り入れて、健康を保ってきました。

ですがこの実験では、体内に取り入れなくても緑をただ眺めるだけで効果があるということが分かり、こんな手軽で安全な健康維持の方法はないと思いました。これこそがまさにガーデンセラピーということだと思います。自然や緑は、どんな薬よりも、健康食品やサプリメントよりも万能薬となり得るのです」

植物が身近にあることが大事

緑のある光景

これまでにも緑の癒やし効果は、森林療法やアロマセラピーなどで研究が進められ、実践もされてきました。ただし、森林療法には身体的に健康でなければその場に行くこと自体が難しいという課題があり、またアロマセラピーには持病があるなど健康状態によっては専門的知識が求められるケースがあります。一方、緑地での休憩ならば、私たちの生活のごく身近な場所で簡単に実行することができ、健康上のリスクがないというのがこれまでの療法と大きく異なる点です。

「もちろん、公園に行かなくても、自宅の庭でも窓辺の緑でもよいのです。森林浴よりは公園浴が手軽だし、庭ならば日常的に緑の恩恵を受けることができます。身近なものが継続という点で一番よいと思います。さて、こうした研究をしていると、しばしばどんな植物が効果がありますか? と聞かれるのですが、これ、というものはありません。人には本人の嗜好性があります。ラベンダー畑での実験でも、屋外の自然環境であることから昆虫などの飛来が影響し、唾液測定の結果ではストレスを感じた人もいました。この結果を見ると、ラベンダーが副交感神経を刺激してリラックスするというこれまでのアロマセラピーの知識だけで安易にラベンダーを植栽しても、必ずしもリラックスできるわけではないということが分かります。アロマセラピーは室内で行うことが前提とされていますが、ガーデンセラピーは戸外の場合が多いですからね」

バラとベンチ
Deanna Oliva Kelly/Shutterstock.com

ですから、まずは植物がある、ということが大事。それは生理的な効果があるからです。何を選ぶか、というのはその人の嗜好性であったり、その土地に合うものを選ぶのが大事だと考えています。ただし、植物に触れる、使うということが加わると、またさらなるよい作用が期待できるので、どこに植えるのかということには配慮しておくとよいでしょう」

植物を育てるという行為自体には、また別の効果があると岩崎准教授は話します。次回は世界で実践される「園芸療法」をご紹介します。

Information

一般社団法人日本ガーデンセラピー協会

植物が人の心身に与える作用について、専門家による医学的な検証と有効な活用方法の確立を目指し、2016年に「日本ガーデンセラピー協会」が発足しました。各分野の専門家によるセミナーを定期的に行っており、一般参加も受け付けています。次々に明かされる植物の効能と活用方法について、いち早く情報を得られる貴重な機会です。

Tel. 03-6811-1424
〒106-0031 東京都港区西麻布4-22-8 麻布ポイント302
http://www.garden-therapy.org

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Credit

文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

<参考文献>
岩崎寛(2008年). 都市緑化植物が保有するストレス緩和効果−揮発成分からみた癒しの効果−
『「環境と福祉」の統合』広井良典編/有斐閣

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