身近な春の花、チューリップを使って、いつもの庭とは一味違う斬新で個性的なガーデンを演出してみませんか? 分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんが、新鮮なチューリップのコーディネートのポイントをご紹介します。

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少ない本数でも効果的なチューリップのコーディネートのコツ

小さな庭やベランダガーデンでも実用的に楽しめる、少ない本数で効果的に魅せるチューリップの植栽法。前回は、植物園で見るようなチューリップの「色のカーペット」や「色の川」を目指さずに、インパクトを重視する品種選びについて解説しました。

ユニークなチューリップ
人工物のような赤×黄の花色が個性的な花容と相まって鮮烈な印象を与えるチューリップ ‘フレーミング・パロット’ (Tulipa ‘Flaming Parrot’)。これくらいインパクトのある品種の場合、少ない本数で植えるほうが、一つひとつの花により注目が集まります。smiley27/Shutterstock.com

今回は、品種の個性を引き出す組み合わせ方、コーディネートのポイントについて解説します。チューリップに限らず、植栽全般に応用できる思考法です。庭づくりのヒントになれば幸いです。

前回の記事もぜひ併せてお読みください。
少ない本数でも効果的に魅せるチューリップ。セレクトとコーディネートのコツ(その1)

コーディネートのポイント1
キレイさで勝負しない組み合わせ。意外性で勝負!

キャラが立つ品種をセレクトしたら、次に気になるのが「どう植えるか」ということですよね。

チューリップの花景色
perlphoto/Shutterstock.com

チューリップとムスカリ、ビオラなどで4月を華やかに彩り、5月には一年草を抜いてバラや宿根草にバトンタッチというのは黄金律。そのルールなら絶対成功するのですが、実は誰がやってもほぼ同じ雰囲気になってしまいます。民主的ですが、ある意味自由ではないのですね。

というわけで、組み合わせの面でも既成の様式にとらわれずに趣向を凝らしたいものです。チューリップの場合、球根を掘り上げて貯蔵せずに一年草扱いで育てると考えれば、もはや何と合わせて植えてもいいわけで、表現の幅が格段に広がります。

とはいえ、植生を無視した「あり得ない」組み合わせでは、違和感ばかりが前に出て説得力がありません。園芸は生き物とコラボして世界観を表現する「芸」ですので、植物たちにとって住みやすい環境を作るのがなによりの基本です。この基本を常に念頭に置いて、植物が生き生きと個性を輝かせる舞台を準備してあげましょう。

チューリップ‘シルバークラウド’の植栽
新感覚の黒軸品種、チューリップ ‘シルバークラウド’(Tulipa ‘Silver Cloud’)と重厚感漂うアガベ・パリィ・トルンカータ (Agave parryi ssp. truncata) 。どちらも起源をたどっていくと乾燥地域の植物。関東地方の秋~春の気候ならばアリの組み合わせです。

前回の繰り返しになりますが、「キレイさ」を追い求めて美麗種を集めていくと、どんどんライバルの多い「激戦区」にハマっていき、その中で抜きん出るのは至難です。できるだけ「他の人がやらなさそうなことで、かつ自分好みのこと」を探っていくとよいでしょう。

グレイギィ系のチューリップ ‘ジャイアントオレンジサンライズ’

上の写真は、前回ご紹介した、葉の豹紋がカッコいいグレイギィ系の品種 ‘ジャイアントオレンジサンライズ’ です。2019年春は、黄金葉のローズマリーやオーストラリア原産種のダーウィニア・タクシフォリアと合わせて、早春の芽吹きから葉も花も楽しめるようにコーディネートしています。

私の場合は、リーフプランツや乾燥地系プランツの植栽がもともと好きだし得意なので、このような感じが私流で気分にフィットします。他の園芸家はこういう組み合わせはしないので、ほぼ誰とも競合しないですし、仮にカブッたとしても自分のやりたいことを素直にやっているので、別に問題ないのです。

「チューリップ命!」でないならば、印象に残る庭づくりには、発想力で勝負して省エネを図るほうがよいでしょう。あえて「ナチュラル」「キレイ」「春らしく」を狙わずに、それとは違う価値観を提示すると効果的です。

黒花チューリップ‘クイーンオブナイト’とビオラ

たとえば、上の写真は私が趣味で園芸を始めたばかりの2002年の春の庭を写したものです。昔の写真で画質が悪く恐縮ですが、思い出の一枚です。よく知られた黒花チューリップの代表的品種 ‘クイーンオブナイト’   (Tulipa ‘Queen of Night’)と、黒い蝶のようなパンジーが織りなす、アンニュイな春の日。どちらも秋にホームセンターで容易に手に入る範囲の品種ですが、花色を黒に絞り込んだチューリップとパンジーの相乗効果だけなのに、劇的でインパクトがありませんか?

今は昔、2002年頃は個人のホームページやネット掲示板が賑わっていた時代。無名の園芸初心者だった私のこの投稿写真を見て、著名な園芸家の方が、「面白い植物観を持っていて注目の人物」と褒めてくださったのを、今でも鮮明に覚えています。植栽で表現していくことへの励みと勇気をいただきました。

チューリップ‘ラ・ベルエポック’

それから10年以上時が経ち、上写真は2016年春の乙庭店頭のチューリップ。アプリコット色の八重咲き品種 ‘ラ・ベルエポック’ (Tulipa ‘La Belle Epoque’) の頽廃的な枯れ姿と、背景にあるマンガべ ‘マッチョモカ’ (x Mangave ‘Macho Mocha’) との、こっくりした色合いの挑発的な組み合わせ。あえて満開ではなく、散り際を見どころにしています。「キレイね~」という言葉では表現できないけど、「儚く散るものの美しさ」があると思います。

コーディネートのポイント2
植栽に文脈やメッセージ性を込めてみる

そして最後に、さらなる上級テクを。色や形のバランスで植栽の見映えを整える組み合わせからもう一歩進んで、植栽を用いて「それ以上の何かを伝える」手法です。

原種系チューリップの植栽
原種系チューリップやバルカン半島の山地原産アザミの仲間キルシウム・ディアカンスム(Cirsium diacanthum)などが砂利の中に点々と植えられた、乾燥地を感じさせる植栽。

チューリップのようによく知られている花が、前述の品種選びや組み合わせの工夫で、なにかしら意味深に植えられていると、「おっ」と植栽に注目するきっかけになります。しかし、それは第一印象のアピールとしては有効であるものの、あくまで小手先のテクニック。それだけだと庭主の植栽センスだけが注目されて、「以上、終わり」となってしまいます。平たくいうと、「浅い」ということなのです。見た目や第一印象は入り口としては確かに重要なのですが、真に人を感動させるのは、その先に潜み広がっている世界観の「奥深さ」なんですよね。

チューリップ ‘ブラックヒーロー’ とアガベ

上写真は、丸みのある八重黒花のチューリップ ‘ブラックヒーロー’ (Tulipa ‘Black Hero’)と灰水色で鋭く硬い姿のアガベ・フランゾシニィ (Agave franzosinii) の組み合わせ例。写っているのは1輪ですが、実際、アガベに対する「か弱さ」を見せるバランスで、‘ブラックヒーロー’は3球しか植えていません。丸みのある花に鋭い棘(危険)が迫ってくる緊迫したストーリー性を、不穏な造形と色み・そして写真の撮り方で表現しています。単にアガベとチューリップが植えてあるという見た目以上のストーリーがあるし、植物だけでなく、シーンを切り取る映像も含めた総合芸術的な植栽表現というのもアリじゃないですか? というメッセージも込めています。

目に留まった植栽を入り口にして、そこから言語化できるメッセージが汲み取れると、見る側としても、植えた人とコミュニケーションできたような知的な楽しさや満足感が得られますし、「この人、深く考えて植えているな」と、感覚の鋭い園芸家のさらなる関心を引くことができます。植物という単語を連ねて、文章のように植栽で何かを伝えるイメージですね。

小型の原種系チューリップ・フミリス ‘リリパットの植栽

上の写真は、植えっぱなしで栽培できる小型の原種系チューリップ・フミリス ‘リリパット’(Tulipa humilis ‘Lilliput’) を砂利敷きの庭に点々と植えて、「間」のある荒涼とした風景を作っています(2010年春)。チューリップと聞いて真っ先に思い浮かぶ、たくさん咲いている華美な雰囲気や可愛らしさをあえて排除し、むしろ山野草ロックガーデンやドライガーデン植栽のような趣向です。

植物園などで見る視界一面に広がる群植チューリップのイメージとはかけ離れていますが、侘び寂びにも似たシンプルな美観があると思います。もちろん、この見た目で楽しんでもらうだけでもいいのですが、「チューリップとはどんな植物か?」を知っていると、その先に広がる深みが見えてきます。

チューリップの自生地
Maxim Petrichuk/Shutterstock.com
自生地に咲く原種チューリップ
自生地に咲く原種チューリップ。Dmitry Fch/Shutterstock.com

上の2枚は、カザフスタンの山岳地域や砂漠で撮影された、自生地での原種チューリップの写真です。野生のチューリップには、このような厳しい気候の地で、凛々しく、そして楚々と咲くものも多いのです。砂利に転々と植えられたチューリップは、原生地へのオマージュなんですね。

一方、今日、大規模庭園で「色のカーペット」に使われる華美な品種もののチューリップは、16世紀にオスマントルコからオランダにチューリップが導入されて以降、植民地政策や信用取引制度の発達で、世界の金融の中心となったオランダの豊かさを背景に品種改良を重ねて生み出された「人類の発明品」なのです。

オランダのチューリップ畑
MarinaD_37/Shutterstock.com

風車を背景に一面のチューリップ畑が広がるオランダの風景は、日本でいうと江戸時代以前には存在しなかった景観です。豊かさや美への飽くなき欲求の中で育まれてきたチューリップの来歴を知っていると、花の見え方もなんとなく変わってきませんか?

ちなみに、1500年代の終わりにヨーロッパにチューリップがもたらされて以降、それまでのヨーロッパの園芸植物にはない美観をもつこの花は、大変な人気を博しました。1630年代には、オランダやフランスでチューリップ人気が頂点に達し、富裕層のステータスシンボルのようにもてはやされて球根価格が高騰した挙句、1637年に投機バブルが崩壊してヨーロッパ経済全体を混乱に巻き込んだという「チューリップバブル(チューリップ狂時代)」も、チューリップの園芸史上、重要な事件といえるでしょう。

パロット咲きチューリップの古典的有名品種 ‘ロココ’

上の写真は、私が園芸初心者だった2003年春の、パロット咲きチューリップの古典的有名品種 ‘ロココ’ の写真です。イングリッシュガーデンブーム真っ只中、平成の園芸史ですね。庭や植栽はとても人工的に設えられた空間なのに、ガーデニングを「ナチュラル志向の趣味」と一面的なイメージで捉えてしまう当時の風潮へのアンチテーゼとし、作為満点の品種 ‘ロココ’ のつぼみと、いかにも園芸品種的な銅葉のクローバーを物憂げに組み合わせ、皮肉っぽく人工的な装飾性を強調しています。

このように、チューリップだけを取り上げても、品種選びと植え方の工夫次第で、いろいろな文脈や意味合いを表現できます。伝えたいことを意識した植栽を心がけていると、目いっぱいにたくさん植えなくても大きな植栽効果を出せるようになりますよ。

このように、チューリップだけを取り上げても、品種選びと植え方の工夫次第で、いろいろな文脈や意味合いを表現できます。伝えたいことを意識した植栽を心がけていると、目いっぱいにたくさん植えなくても大きな植栽効果を出せるようになりますよ。

刺激的・ガーデンプランツブック

拙著『刺激的・ガーデンプランツブック』でも、植栽を考えるときの方法として、植物の原生地や性質・来歴などの「意味」を組み合わせて、文脈のある劇的な植栽を作る思考テクニックについて解説しています。もしご興味がありましたらご参照ください。

春のチューリップに「キレイさを追求しない」とか「たくさん植えなくてもいい」とか、 「えっ?」と思われた点もあるかもしれません。でも、他人との違いが新鮮な世界観や個性を際立たせるポイントなので、なるべく大多数の人がやらないような、ニッチな立ち位置を狙っていくほうが、競争相手(似たような植栽)が少なく、かえって安全なんですよ。経済用語でいうところの「ブルー・オーシャン戦略」ですね。他人に流されず、自分がいいと思うものを貫いていけば、生存競争の少ない、青くて広い海に辿りつけます。

ACID NATURE GARDEN 乙庭

「庭主は 植物という 言の葉を得たり」
(太田敦雄 園芸家 1970 – )

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Credit

写真&文/太田敦雄
「ACID NATURE 乙庭」代表。園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科卒業後、前橋工科大学で建築デザインを学ぶ。趣味で楽しんでいた自庭の植栽が注目され、建築家とのコラボレーションワークなどを経て、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書に『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)。
オンラインショップでは、レア植物や新発見のある植物紹介でファンを増やしている。
「ACID NATURE 乙庭」オンラインショップ http://garden0220.ocnk.net
「ACID NATURE 乙庭」WEBサイト http://garden0220.jp

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