トップへ戻る

原料は紅花のみ! 世界唯一の紅屋が作る「紅」を紅ミュージアムで体験

原料は紅花のみ! 世界唯一の紅屋が作る「紅」を紅ミュージアムで体験

撮影:外山亮一

古来女性は、唇を赤く染め、キレイに見せるためのメイクをしてきました。日本女性が昔から使っていたのが、キク科ベニバナ属の一年草 “紅花”から作った“紅”。そんな伝統的な紅を、日本で唯一いまも作っているのが、「伊勢半本店」です。今回は、美容ライター・徳永幸子さんが、日本の伝統コスメ・紅の歴史や作り方などが展示されている「伊勢半本店 紅ミュージアム」を訪れ、紅の魅力を紹介してくれます。併設するサロンでは、誰でも無料で紅を体験できるんですよ。

Print Friendly, PDF & Email

紅は日本でたった2人の職人が作る究極のナチュラルコスメ!

紅は、黄色の花を咲かせる“紅花”の花びらに、たった1%だけ含まれる赤い色素
撮影:外山亮一

『キスミーフェルム』や『ヒロインメイク』でおなじみの化粧品会社、伊勢半。そのグループ会社である伊勢半本店の創業は、なんと江戸時代、文政8年(1825年)までさかのぼります。

紅は、黄色の花を咲かせる“紅花”の花びらに、たった1%だけ含まれる赤い色素。何十工程もかけて手作業で、この1%を抽出して完成します。紅花の色素以外、なにも含まない、まさに究極のナチュラルコスメなのです。

こうして作られる紅は、不思議なことに、赤ではなく“玉虫色”の輝きを放ちます。質が高ければ高いほど、この玉虫色が強くなるそう。伊勢半本店の作る『小町紅』も、みごとな玉虫色で、じっと見ていると吸い込まれそうになるほどの美しさ!

紅は江戸時代、金と等価交換されることもあったほど貴重でした。

紅は江戸時代、金と等価交換されることもあったほど貴重でした。製法は“一子相伝”で、口伝によってのみ、現会長である7代目まで受け継がれてきたのだとか。現在は、秘伝の製法をもとに、日本でたった2人の職人さんにより創業当時と変わらない製法で作られているのです。

玉虫色に輝く紅ができるまで

最上紅花から玉虫色に輝く紅ができるまで
撮影:外山亮一

山形県の最上紅花の花弁を、朝露に濡れた早朝に1枚ずつ丁寧に手摘みするところから、紅づくりはスタートします。紅花が1/3ほど赤くなったら、摘みどき。ガクには棘がたくさんあって痛いので、朝露で棘が湿って柔らかなときに摘むのだとか。そのため、いつも早朝5時くらいから作業を始めるそう。

紅の花びらを発酵させたのち、臼でついて餅のようにした“紅餅”。
花びらを発酵させたのち、臼でついて餅のようにした“紅餅”。200~300輪から1つ分の紅餅しか作れません。ミュージアムに展示されている紅餅に鼻を近づけてみると、まるでハーブティーのような、もしくは草の中に寝転んだときのようなニオイがしました。

おちょこは、優秀すぎるコスメ容器だった!

紅餅から、紅を取り出すのが、紅屋の仕事。

この紅餅から紅を取り出すのが、紅屋の仕事。その技は秘伝中の秘伝です。水に紅餅を浸して紅液を作るところから始まり、いくつかの工程を経て、最後は羽二重をかけたセイロに流し入れて濾していきます。すると、ヨーグルトのようにトロトロな状態になった紅が出現。これを、おちょこや小皿の内側に刷毛で塗って売ったのです。

紅を濾すために使われていたセイロ
紅を濾すために使われていたセイロ

おちょこに塗った赤い紅は、乾燥するとみごとな玉虫色に。しかし、空気や光に触れると、だんだん紅色に戻ってしまいます。そこで、使わないときはおちょこを伏せて光をシャットアウト。おちょこや小皿で売るシステムは、簡単なのに保存度を高めることができる、理にかなった販売方法だったんですね。江戸時代は、紅がなくなると、またおちょこを持って紅屋にいき、紅を塗って購入できるので、エコでもありました。

おちょこ1つで6~7万!? 気になる紅のお値段は…

小町紅『手毬』9,000円(税抜き)は、まさに手毬をモチーフにした有田焼の器に紅が塗られています。
小町紅『手毬』9,000円(税抜き)は、まさに手毬をモチーフにした有田焼の器に紅が塗られています。4種のデザインから選べるのも楽しいですね。

いま伊勢半本店で売られている紅は、有田焼の器を使った「小町紅『手毬』」9,000円や、「小町紅『季ゐろ』」12,000円(いずれも税抜き)など、1万円前後のお値段ですが、江戸時代の価格は、おちょこひとつでいくらぐらいだったと思いますか? 高いものだと6~7万円、安いものだと300円と、かなりの幅があったようです。

しかしプチプラ紅は、やはり発色があまりよくなかったんだとか。プチプラでも優秀な口紅がたくさんある現代に生まれて、ほんとによかった!

3色だけでメイク完了! 江戸時代のお化粧事情とは

いまでは、ありとあらゆる色を肌にのせてメイクをする私たちですが、江戸時代のお化粧で使った色は3色のみでした。それが、おしろいの“白”、眉墨とお歯黒の“黒”、そして紅の“赤”の3つ。

紅は、唇にのせるだけでなく、頬紅として、またアイシャドウとして、さらには耳たぶにも塗ったそう。いまもある、“耳たぶにチークを塗って、上気したような血色感を出す”テクニックは、なんと江戸時代から存在していたんですね!

また、爪に紅でドットを描いたり、爪の内側を赤く染める使い方もしたそうです。これは、ネイルアートとしての意味だけでなく、魔除けの意味があったのだとか。“悪いものは穴のあいているところから入ってくる”と考えられていたので、魔を祓う色とされてきた紅を塗って、悪いものをシャットアウトしていたんですね。

紅を目元にさすことを “目はじき”と言ったそう。その色っぽい姿は、浮世絵の題材としてまさにうってつけだったことでしょう。
紅を目元にさすことを “目はじき”と言ったそう。その色っぽい姿は、浮世絵の題材として、まさにうってつけだったことでしょう。

江戸時代のトレンドはメタリックグリーンの唇!?

そんな江戸時代のメイクにも、やはりトレンドがあったそうです。文化・文政期には、下唇にのみ何度も紅を塗り重ねて、玉虫色に光らせる“笹紅”というメイクテクが大流行しました。

玉虫色に輝く紅は、ただでさえ高級品。なのに、緑色に光るまで唇に重ねるには、おちょこ1/3~1/2ほどの紅が必要になり、いまの値段に換算すると、1回数万円くらいはかかった超セレブメイク! もともとは花柳界の遊女や歌舞伎役者などが、贅沢なお化粧をすることでそのステイタスを誇示するために施したお化粧なのですが、1回数万円なんて、リッチな階級の女性しかできませんよね。

そこで笹紅に憧れた庶民は、“ベースに墨を塗り、その上から安い紅を重ねる”という技を生み出しました。これが不思議と、緑色に見えたんですって! いつの時代も女性は、キレイのための努力と創意工夫を惜しまないんですね。いじらしい女心!

伊勢半本店 紅ミュージアムに展示してある江戸時代の美容本『都風俗化粧伝』。
伊勢半本店 紅ミュージアムに展示してある江戸時代の美容本『都風俗化粧伝』。
このページは、低い鼻を高く見せるメイクテクについて書かれています。ほかにも、体型別による美しい着物の着方など、コンプレックス解消のためのテクニックが数多く紹介されています。いつの時代も、美しくなりたい気持ちは同じなんですね!

江戸時代から変わらない心ときめく色…「紅」を初体験

併設されているサロンでは、誰でも紅を体験できます。
撮影:外山亮一

併設されているサロンでは、誰でも紅を体験できます。日本女性に生まれてきたなら、一度くらいは紅を点(さ)してみたいもの。伊勢半本店本紅事業部の阿部恵美さんに、タッチアップしていただきました。

玉虫色に輝く『小町紅』は、水を含ませた筆でなぞると、一瞬であでやかな赤に変わります。

玉虫色に輝く『小町紅』は、水を含ませた筆でなぞると、一瞬であでやかな赤に変わります。本当に不思議で、本当に美しい!

「その人の肌色を反映するので、同じ紅でも一人ひとり違った赤になるんですよ。オレンジがかったり、ピンクっぽくなったり。だから、とても肌馴染みがいいんです。徳永さんは、とてもキレイに赤が出ますね。せっかくだから、下唇にもう少し重ねてみましょうか」(阿部さん=以下「」内同)

小町紅は、すぐに乾くのが特徴です。乾いたあとは、カップやマスクにつかないんですよ。なのに、石けんで簡単に落ちてくれます

重ねてもらったところ、下唇が光の角度によってチラチラと玉虫色に光りました。なのに、ギラギラせず、とても上品な輝きです。必ずその人に似合う赤に発色してくれるとあって、女性への贈り物に買っていかれる男性もいるそう。

「小町紅は、すぐに乾くのが特徴です。乾いたあとは、カップやマスクにつかないんですよ。なのに、石けんで簡単に落ちてくれます」

つまり、ロングラスティングなのに簡単にオフできる超優秀リップというわけです。取材帰りに、近くのファーストフード店で油たっぷりのフライドポテトを食べましたが、紅が落ちずにしっかり色が残っていたのには驚きました!

便利すぎる! 現代女性にこそ紅がオススメ

携帯用として、小さなコンパクトに紅を刷いてある『板紅』という種類も。化粧ポーチに入れてもかさばらず、PCや資料などでなにかと荷物が重くなりがちな現代女性の味方ともいえるアイテムです。2019年3月1日には、携帯用の紅『板紅』も3種、数量限定で登場しました。

板紅とは、外出時に紅を簡単に持ち運びしやすいよう、薄い形状にした紅のこと。
撮影:外山亮一

板紅とは、外出時に紅を簡単に持ち運びしやすいよう、薄い形状にした紅のこと。パッケージの唐紙は、「雲母唐長(KIRA KARACHO)」のもの。1624 年に京都で創業し、日本で唯一途絶えずに11代続く唐紙屋「唐長」の唐紙師であるトトアキヒコ氏と千田愛子氏がプロデュースする、唐長を継承し次世代を担うブランドです。

日本で唯一、約400年の歴史を継承する唐紙屋と、約200年の歴史を繋ぐ紅屋「伊勢半本店」の稀なるコラボから生まれた、まさに芸術作品のような小町紅です。

【商品概要】
(手前から時計回りに) 小町紅『板紅』小柄雲鶴、小町紅『板紅』桜草唐草、小町紅『板紅』瓢箪唐草
サイズ:板紅サイズ約6.4×6.4×1.6cm/紅面サイズ約5.0×5.0cm 価格:21,000円(税抜き)

江戸時代の板紅容器。
こちらは紅ミュージアムに展示されている、江戸時代の板紅容器。女性は、思い思いに自分の好きな容器を紅屋に持って行き、紅を塗ってもらっていました。どれもが工芸品のように繊細な意匠で、とってもオシャレ!

一生を彩る…紅に思いを込めた日本人

一生を彩る…紅に思いを込めた日本人

古より紅は、“魔を祓う”として、日本人の人生の節目に行われるさまざまな儀礼(初宮参り、七五三、婚礼、還暦など)に使われてきました。

赤ん坊が生まれたときは、“おくるみ”の隅を赤で染めたり、婚礼では、角隠しの裏地に紅絹(もみ)を用いたり。還暦で着るのも、赤いちゃんちゃんこですよね。これらは全部、悪しきものを寄せ付けないための“守りの赤”なのです。

関東にある某神社の結婚式場では、婚礼のとき、支度の仕上げに“花嫁の紅を母親がさす”という儀式があるそう。これは、“結婚したあとずっと幸せに暮らせるように”との祈りを込めたもの。

このように、日本人の一生に寄り添ってきた紅。人生の節目を迎える大切な人へ、贈り物にするのも素敵ですね。

江戸時代より変わらぬ技法で守られ続けている紅。その色は、日本人のDNAにしっかりと刻まれているようで、見れば見るほど、つけてみればつけてみるほど、不思議と心惹かれる色でした。ミュージアムの入館も、紅のタッチアップ体験も無料なので、一度訪れてみてはいかがでしょうか。

■伊勢半本店紅ミュージアム

伊勢半本店 紅ミュージアム
撮影:外山亮一
伊勢半本店 紅ミュージアム
撮影:外山亮一

○ 所在地:〒107-0062 東京都港区南青山6-6-20 K’s南青山ビル1F
○ TEL:03-5467-3735
○ 開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
※ただし、企画展開催中は開館時間に変更が生じる場合があります。
○ 休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日または振替休日の場合は、翌日休館)、年末年始
○公式サイト:http://www.isehanhonten.co.jp/museum/

併せて読みたい

サボテンにブロッコリー…植物生まれの原料で安心! 潤いも発色も優秀な自然派ルージュ3選[ボタニカル・パワー]
浮世絵で見る江戸の庶民のガーデニングスタイル 展覧会「江戸の園芸熱-浮世絵に見る庶民の草花愛-」開催中
大正ロマン~昭和モダンのファッションとバラ

Credit

写真&文/徳永 幸子(とくなが さちこ)

早稲田大学卒業後、美容専門の編集プロダクション「レ・キャトル インターナショナル」でライター・エディターとしてのキャリアをスタート。『non・no』、『MORE』、『LEE』、『ar』 といった女性誌でライティングや、『美レンジャー』、『美的.com』などの美容系webメディアで編集に従事。エイジングケアコスメとチョコレートに目がない44歳。

「Garden Story」LINE@の友だち追加はこちらから!
友だち追加

Print Friendly, PDF & Email

人気の記事

連載・特集

GardenStoryを
フォローする

ビギナーさん向け!基本のHOW TO