今から200年前の江戸時代後期。園芸が空前の大ブームとなった江戸の町では、将軍や大名などのセレブのみならず、庶民もこぞって植木鉢で草花を育てて庭先やインテリアをおしゃれに彩っていました。珍品奇品も多く誕生し、箱庭づくりなど楽しみ方もマニアックに展開していった江戸時代の園芸大ブームを、前期後期合わせて200点あまりの浮世絵で紹介する展覧会が「たばこと塩の博物館」で3月10日(日)まで開催中です。

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庶民に広がったコンテナガーデニング

江戸の花流行花壇 浮世絵
「江戸の花流行花壇」 無款 
団扇絵 個人蔵

思う存分庭作りできる広さがない! というスペース問題は、時代を遡っても現代と大差はなく、江戸の庶民も広々とした庭を持てる人はそういませんでした。ですから、もっぱら庶民のガーデニングは鉢植えでしたが、享保以降普及した植木鉢こそが庶民の間に園芸を爆発的に広めたきっかけの一つです。

上の絵では棚にずらりと植木鉢が並んでいますが、じつはこれは人気歌舞伎役者を植木に見立てた絵で、鉢の文様と植えられた植物によって、どの歌舞伎役者を表しているかが分かるようになっています。人気役者同様、鉢植えも人気であったことが分かると同時に、当時の人々にとってスーパースターであった歌舞伎役者を見立てられるほど、鉢植えがクールでスタイリッシュなものとして捉えられていたことがうかがえます。ちなみに、鉢植えを並べた庭づくりをイギリスではコンテナガーデニング(寄せ鉢ガーデニング)と呼びますが、江戸の庶民のガーデニングはまさにこのスタイルでした。

コンテナガーデニング
英国のコンテナガーデニング。

デッドスペースにも花緑が育つ「寄せ鉢」ガーデニング

鉢植えだからできた早咲き、珍品奇品の登場

五代目松本幸四郎の福寿草売り
「五代目松本幸四郎の福寿草売り」 歌川国貞(三代歌川豊国)
大判錦絵 個人蔵

江戸時代には「唐むろ」という今でいう温室が発明され、植木屋はこの温室内で鉢植えを栽培することにより、桜や梅、福寿草などの「早咲き」を作り出すことができるようになりました。早咲きは通常の季節より早く咲かせることで希少価値が生まれ、正月の植木市でも縁起物として人気を博しました。また、唐むろや植木鉢といった栽培装置の変化によって、舶来品など栽培する植物のバリエーションも増加。同時に育種も盛んになり、「変化朝顔」など、江戸の園芸はどんどんマニアックな世界へと展開していきました。

変化朝顔
「変化朝顔展示会&大輪朝顔」会場にて。

育種とは同じ科・属の植物の交配により新しい花を作り出す技術で、江戸時代には大名から武士、一般庶民の間で朝顔の育種が大ブームになりました。そうして生まれたのが「変化朝顔」というジャンル。斑入りや二段咲き、牡丹咲きなど一見して朝顔と分からないような変わった花が多く生まれ、奇品ぶりを競う品評会も盛んに開催されました。変化朝顔は突然変異の個体に端を発し、より珍奇なものを目指して育種が行われた結果ですが、ここには整った形や華麗さにばかり美を求めず、むしろ欠けた部分や地味さに美を見出す日本独自の美意識が色濃く反映されています。この感性は現代にも受け継がれ、近年流行中の「個人育種ビオラ」など、一般の人々の間でも特殊な花が生まれる日本特有の育種文化に繋がっています。

個人育種のビオラ
斑入り葉や、縞々、覆輪、ギザギザの花など個性的な品種が多い「個人育種ビオラ」。

江戸時代のミニチュアガーデンづくり

新板手遊瀬戸物箱庭尽
「新板手遊瀬戸物箱庭尽」 歌川貞房 
大判錦絵 個人蔵

植物自体のマニアックな展開とともに、江戸時代には鉢植えの楽しみ方もいっそうユニークになっていきました。上の絵は「箱庭」を描いたおもちゃ絵です。箱庭とは箱状の入れ物に土を入れ、小さな木や草を植え、さらに建物や水辺、人形を配して、小さな器の中に庭園風景を模して楽しむものです。上の絵では松や桜が植えられ、立派な屋敷や太鼓橋のかかる池には鯉も泳ぎ、凝った作りになっています。こうしたミニチュアのパーツは縁日の露店でも販売されており、それらを組み合わせて銘々箱庭づくりを楽しみました。箱庭づくりは大人だけでなく、小さな子どもの遊びの一つであったことも記録に残されていますが、庶民が庭という空間を持たない代わりに、想像力を最大限に広げて園芸を楽しんでいたことが分かります。

箱庭はさらに盆景という厳格なルールのあるジャンルにも発展しましたが、また一方で現代ではミニチュアガーデンというガーデニングスタイルにも通じています。

ミニチュアガーデン
横浜の洋館を模した現代のミニチュアガーデン。クローバーやアリッサムなどで茂みが作られている。

現在、たばこと塩の博物館(東京都・墨田区)では特別展示として「江戸の園芸熱 -浮世絵に見る庶民の草花愛-」が開催中。前期・後期を通し約200点あまりの浮世絵が展示されます。現代のガーデニングの楽しみに通ずる江戸の園芸文化をのぞきに出かけてみませんか。

夏の夕くれ
「夏の夕くれ」 歌川国芳 
団扇絵 個人蔵

Information

「江戸の園芸熱 -浮世絵に見る庶民の草花愛-」

会期:後期/2月19日(火)〜3月10日(日)

開館時間:午前10時〜午後6時(入館は午後5時30分まで)

休館日:月曜日

会場:たばこと塩の博物館 2階特別展示室

住所:東京都墨田区横川1-16-3(とうきょうスカイツリー駅から徒歩8分)

電話:03-3622-8801

HP:https://www.jti.co.jp/Culture/museum/index.html

入館料:大人100円、満65歳以上(要身分証明)と小中高校生は50円

併せて読みたい

江戸のおしゃれなガーデンライフを見に行こう! 展覧会「江戸の園芸熱 -浮世絵に見る庶民の草花愛-」 “Unbelievable Floriculture in Ukiyo-e”
写真家・松本路子のルーフバルコニー便り「芸をする朝顔」
どんな花が咲くのかな? 変化朝顔のタネを播いて咲かせてみました

Credit

写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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