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これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。カメラを向ける対象は、公共の庭から個人の庭、珍しい植物まで、全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第15回は、北海道で3カ所目の撮影地となった宿根草のナーセリー「大森ガーデン」。訪れるきっかけと撮影時の思い、そして宿根草の魅力を綴っていただきます。

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宿根草が主役のフォトジェニックな庭

大森ガーデンのエントランス
ガーデンエントランスから入ってすぐ目の前に広がる光景。ユーフォルビア‘ファイアーグロウ’、ロニセラ・ヘクロティなどがアーチの足元付近に茂り、季節により主役が交代して、秋まで訪れるたびに違う発見があるコーナー。

北海道でご紹介する庭として第3弾となるのが、十勝・広尾町の宿根草ナーセリー「大森ガーデン」です。宿根草を1,000品種も扱っているこのナーセリーには、まさにマイブームの宿根草が主役のフォトジェニックな庭があり、ここでお見せする写真は、僕にとって宝物のようなものばかりです。

僕が大森ガーデンを訪ねたのは、今回が2度目になります。初めて訪ねたのは2011年6月の末。この時は、イラストレーターの藤川志朗さんに案内をしていただき、帯広周辺のガーデンを巡っていました。といっても、その日はあいにくの雨模様で、1軒目に訪ねた「六花の森」も、野草の見頃はすでに過ぎていて撮影できずじまいでした。

悪天候の中、初めての訪問

大森ガーデンのガゼボ周辺
ガゼボを囲むエリアの一部、ブルーの花が咲く植物を集めたエリア。薄い花色の大柄なサルビアの花がらは、その造形を残したままに、ネペタやルピナス、遅咲きのサルビアなどが、それぞれのまた違った造形と草丈で次々に開花していく。

昼食の後、天気も悪いし、予定していたガーデンに行っても多分撮影は無理そう。どうしようか、と思っていると、藤川さんの提案で「ちょっと遠いですが、面白いナーセリーさんにでも行ってみますか」と。そうして連れて行ってもらったのが、大森ガーデンさんでした。その時は天気が回復する見込みもないし、広い庭に宿根草が咲いているのかなと思ったくらいだったので、カメラも出さずにショップに入っただけで、庭を見せていただくこともありませんでした。でも、ショップ内には、たくさんの宿根草の苗がきれいに並べられていて、こだわりが伝わってくる素敵なお店だなと思いました。

クレマチス インテグリフォーリア
クレマチスのインテグリフォーリアが、花を咲かせながらタネを実らせている。花だけではなく、茎、葉、種……どの部位も観賞価値があれば、まだ庭に残したいもの。クレマチスはこぼれ種ではびこることがないため、毎年あえてこの姿を残している。

ちょうど社長さんもお店にいらして、藤川さんとは久しぶりの再会だったようで、いろいろなお話を聞かせてくれました。「十勝千年の森」のデザイナーである、ダン・ピアソン(Dan Pearson)氏も来道した時には訪ねてくるという、ご自宅のお庭まで見せていただきました。でも、当時の僕には(多分今も変わらずですが)知らない植物名があまりにも多く、話の内容も分からない点が多かったのが残念でした。

宿根草の魅力を知るきっかけ

大森ガーデン
ロジャージア‘ブロンズビューティー’やジギタリス・グランディフローラなど、赤と黒の花色や葉で構成した個性的な色合いが楽しめる「赤と黒のガーデン」。春先は緑や斑入り葉、黒葉シルバーグリーンなどの見事なカラーリーフガーデンに。ここは2019年にリニューアルで新しい景色が誕生する予定。

その後、何年か経った頃、BS放送でヨーロッパのガーデニング事情を伝える番組がありました。番組は2部構成のようになっていて、冒頭は、ドイツのケルンの話でした。工業化が過度に進んだケルンでは、華美な花や庭では人々は癒されることはなく、自然の緑が一番美しいとされていて、町中の公園は雑草だらけという解説で、ちょっとショッキングな内容でした。

バラ ウィリアム・バッファン
バラ‘ウィリアム・バッファン’。勢いのよいバラで、樹高約2m。ターシャ・テューダーの庭にも植えられていたと推測。冬でも寒さ保護のための囲いはせず、防除もほとんどしていない。

次の特集は、オランダのガーデンデザイナーがニューヨークの廃線になった地下鉄の線路に、ナチュラルな宿根草の庭を作ってニューヨーカーの憩いの場になっているという「ハイ・ライン」が紹介されていました。今思えば、それってピート・アウドルフ(Piet Oudolf)氏の話だったのですね。ニューヨークの映像は、光も植栽もとても美しく、僕もニューヨークに行って、実際に撮影をしてみたいと思ったものでした。バラやクレマチスばかりでなく、宿根草の庭の魅力に改めて気づいた瞬間でした。

大森ガーデン ゴシキヤナギ
奥に見える白っぽい葉の涼しげな樹木は、ゴシキヤナギ(サリックス)。初夏の新葉が展開していく頃は、その葉が白とピンクに染まり、まるで花が咲いたように美しく、「赤と黒のガーデン」の背景としてもその魅力を発揮。

最近では千葉の佐倉市にある「草ぶえの丘バラ園」でも、きれいなグラス類の植栽エリアがあるし、個人の庭でも花壇の中にいろいろなグラス類が入っていることが多くなってきたように思います。Garden Storyにすでに掲載している長野の「GARDEN SOIL」は、ナチュラルにデザインされた、まさに“宿根草の庭”で、僕にとっては宿根草を教えてもらう「教室」のような場所。訪れるたびに学ばせてもらっています。

北海道の撮影地3カ所目となる「大森ガーデン」へ

大森ガーデン オーナメンタルグラス
グラスの仲間、デシャンプシャ‘ゴールドタウ’の穂と宿根草を使って、「自然風だけど可愛らしい」組み合わせに。パニカム‘ノースウィンドウ’やダイアンサス・カシュジアノーラム、モリニア‘ウンメロウ’、セダム‘フロスティモーン’などが混ざり合う。

今回ここにご紹介している写真は、2017年7月14日に撮影したものです。最近は毎年、北海道に行きますが、2017年は今までで一番遅い時期の来道。その狙いは2つ。1つは前々回ご紹介した「イコロの森」のバラ、ハイブリッド・ルゴサの撮影でした。2つ目は、前回ご紹介した「上野ファーム」のノームの庭の撮影でした。幸い天気にも恵まれて、2つの目的は無事クリアしたので、次はどこに行こうかなと考えた時に思いついたのが、宿根草の庭「大森ガーデン」でした。

大森ガーデン オーナメンタルグラス
グラスの仲間、デシャンプシャ‘ゴールドタウ’の穂が徐々にエアリー感を増して、 秋にはゴージャスなゴールドの海になる。その風景になるまでまだまだ遠い、7月の景色。

藤川さんに連絡をして、僕が行くことを大森ガーデンに伝えてほしいとお願いをしたら、いざ十勝へと出発です。途中、北海道の美しい風景を存分に堪能しながらのロングドライブ。寄り道をしながら17時過ぎに大森ガーデンに到着しました。ショップに寄って,

社長夫人でガーデンデザイナーの大森敬子さんにご挨拶を済ませ、ガーデンへと向かいました。

他では見られない宿根草の海を美しく撮る

大森ガーデン宿根草 アストランティアなど
季節の移り変わりで花色、穂、葉色が変化する組み合わせ。この時期は、アストランティア‘マグナムブラッシュ’の花が低温により赤味を帯び、グラスのカラマグロスティス‘オーバーダム’の穂が紫からベージュへと色変わりして美しい。

ガーデンエントランスのアーチを抜けると、目の前には美しい宿根草の海! 早くも気分は最高潮です。後は撮影ポイントを探しながら、魔法の時間が訪れ、優しい光がガーデンを包み込むのを待つだけでした。やがてお店のスタッフさんたちも皆帰り、静まり返ったガーデンの中を僕一人で歩き回っていると、右を見ても左を見ても美しいシーンの連続。まだ光が強すぎるのは分かっていても、レンズを向けずにはいられません。

ルピナス、クレマチス、サルビアの組み合わせ
青色を意識したエリア。終わりかけのルピナス・ペレニスの青花とクレマチス’ジャック・マニー’の濃いブルー、差し色に白花のサルビア‘スノー・ヒル’の組み合わせ。

撮影ポイントを探しながらガーデンの中を何周かしていると、太陽が奥の林の向こうに沈みかけ、やがて辺りがオレンジがかった柔らかい光に包まれ始めました。18時30分にようやく撮影スタートです。先ほどから歩き回って決めていた撮影ポイントでファインダーを覗くと、30分前とは違った美しい宿根草の世界が広がっていました。

大森ガーデンのネペタ‘シックスヒルズ・ジャイアント’
ネペタ‘シックスヒルズ・ジャイアント’のラベンダーブルーが主役になる7〜8月中旬。遠目にはラベンダーのようですが、このガーデンではラベンダーよりネペタのほうがその魅力を発揮。

きれいなガーデンに美しい光が差し込んでくれば、カメラマンはただカメラを構えてシャッターを切るだけです。一人静かに興奮しながら、19時過ぎ、太陽が完全に沈むまで、幸せな時間が続きました。撮影が終わり、カメラを片付けていると、「帰り道はエゾシカに注意してください」と、藤川さんから注意喚起のメールが入っていました。

大森ガーデンの3つのエリア
異なるコンセプトを持つ3つのエリアが重なり見えるビューポイント。手前はネペタとアスターによる「ウェーブガーデン」。その奥が、グラスと宿根草が重なり合う「モザイクガーデン」。そのまた奥が、「小さいおうちの庭」。大森さん曰く「穏やかな中にも高揚感ある幸せ」を感じるシーン。

先日、1月20日は神奈川県横浜でPiet Oudolf氏のドキュメンタリー映画『FIVE SEASONS』の上映会がありました。次々と映し出される秋の黄金色に輝く素敵なガーデンをたくさん観たことが刺激となり、「今年は10月に北海道に行って、イコロの森、上野ファーム、大森ガーデンの秋の庭を絶対に撮ろう!」と、そう心に決めたのです。

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Credit

今井秀治

写真&文/今井秀治
バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。

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