30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了された遠藤昭さん。帰国後は、神奈川県の自宅の庭で100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主です。ガーデニングコンテストでも数々の受賞歴があり、60㎡の庭づくりの経験は20年になる遠藤さん。2018年に旅したイギリスのハンギングバスケットのさまざまをレポートします。

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ハンギングバスケットが街並み景観をレベルアップ

2018年6月にコッツウォルズを中心に庭巡りの旅に出かけた。ウイズリーやヒドコートなど、多数の庭園を巡りって、改めてイギリスの園芸文化の伝統のすごさと、人々の園芸に対する造詣の深さに敬服し、多くの感動を経験すると同時に、ガーデニングのアイデアをいくつも膨らませることができた。そもそも庭巡りの旅なので、庭を見て感動するのは「想定内」の事だが、実は「想定外」の感動があった。それはハンギングバスケットのある美しい街並み景観であった。

日本でもハンギングバスケットづくりは行われているが、ガーデニングコンテストのような場面やネット上ではお目にかかるが、街中で見かけるのは極めて稀である。そして僕のイメージではハンギングバスケットと言えば、コンテストで見かける“かなり力んだ作品”で、珍しい高価な花苗をふんだんに使用していると感じて、つい「花苗代はいくらになるのだろう?」と想像してしまい、少々、遠い存在だった。

今回の旅で見かけた、ありふれた花を上手に使用したハンギングバスケットと街並み景観に対する感動は、少々カルチャーショック的なものであった。

ストラトフォード・アポン・エイボンにて

日本のハンギングよりシンプルな植栽だが、なかなか絵になっている。

そのカルチャーショックの第一波は、2日目に訪れたシェイクスピアの生誕の街、ストラトフォード・アポン・エイボン。エイボン川の畔の静かな街だ。この日は、ウィズリーガーデンとモティスフォント・アビーガーデンで、たっぷりと美しい庭を堪能し、すっかり満ち足りた気分だった。夕方に着いて、シェイクスピア生誕の家など見て回ったが、陽が西に傾きかけた頃、はっと視界に飛び込んできたのが街角の絵になるハンギングバスケットのある風景だったのだ。

街中をほんの少し歩いただけなのに、素敵なハンギングがたくさん。

美しいハンギングバスケットが、横文字のお洒落な看板と共に。まさに「外国の風景」で、その美しさに惹かれてシャターを押した。庭巡りの旅で出合った想定外の景色だった。日本でも、他の海外旅行でも見たことのない、街並みとハンギングバスケットの織り成す美しさにカルチャーショックを覚えたのだ。

イポメアのような銅葉が主役。豪華なハンギングがいっぱい並んでいるが、それぞれよく見ると、ゼラニウム、ペチュニア、ロベリア等の比較的平凡な植物が多い。
看板だけでもステキ!
窓辺にも。

これ程、立派なハンギングが生き生きとしているのは、やはり気候のせいもあるだろうが、やはり人々の花に対する愛情、そして街景観に対する思いなのだろう。花で観光客をもてなす英国人気質のような、伝統に育まれた文化を感じた。

チッピングカムデンはハンギングバスケットの街

そして、いよいよコッツウォルズの街、チッピンカムデンへ。この街で、ハンギングバスケットと街並み景観に本格的なカルチャーショックを受けたのだ。チッピングカムデンはコッツウォルドストーンの名で知られる、この地方特産のハチミツ色の石造りの建物との調和が素晴らしい。

ハンギングバスケットがこれほど街並みを美しくしているのを見たのは初めてである。窓辺や玄関脇に飾られたハンギングバスケットが、街の美しさに花を添えるということは、コッツウォルドストーンで統一された建物が並んでいるという表面的なものではなく、歴史と伝統を重んじ、自分たちで美しい街並み文化をつくり上げていくという、人々の熱い思いすら伝わってきた。

日本のよくある「これでもか!」と珍しい植物を詰め込むハンギングには抵抗があるが、ごく平凡な親しみのある花々を使用して、これほどの景観効果をプロデュースする、ハンギングの力に脱帽だ。さすがイギリスですね。

帰国後、この記事の執筆をするにあたって写真を整理していても、その時の感動を呼び戻してくれるほど本当に美しい街並みだ。街角の鉢物やハンギングも洗練されていて、街の景観を一層美しくしていた。

ハンギングに使われている植物の変化を眺めて散策

日本の街並みと何が違うのか? そうだ、電線が一本もない!

立て看板や宣伝ののぼり旗だってない。美観より経済優先できたこの数十年の日本との違いに気がついてしまったのだ。

ブラキカム、ブルーファンフラワーと青系統で爽やかなハンギング。グレコマなども見えます。

これまた赤一色でなかなかのインパクト。見事な咲き姿のぺラルゴニウムでした。日本の気候では無理かも。

最近の日本にも見られるカラーリーフを中心にしたハンギング例。イギリスでもカラーリーフの組み合わせが流行りなのだろうか? 使われているのは、ムラサキゴテン、ディコンドラ、イレシネ・ファイヤーワーク、ヒポエステスだろうか。

ちょっと乱れ気味ですが、やはりゼラニウムは強健ですね。

こうしていくつも観察していたら、ひとつの法則に気がづいた。上に比較的大輪の花を置き、下にいくにつれ小輪の花を配置する。さらに、つる植物を垂らす。街並み同様にハンギングにも、ある統一感が感じられるのは、そんな「掟」があるのかも。

チッピングカムデンの街は、美しいハンギングの数々と街並み風景がどこまでも続く。

バートン・オン・ザ・ウォーターのハンギング

可愛らしい街だ。そして目に飛び込むのがハンギングの花たち。平凡な花を使用しているのに、おしゃれで素敵なのだ。

明るい色使いが石づくりの壁に映える。

通りに面した家々のフロントガーデンを美しく飾りオープンにし、道行く人々に楽しんでもらうイギリスの庭づくりと、塀で囲んで敷地の中が見えないようにする日本の庭づくりの違いは、住宅事情等で仕方ないとしても、ハンギングバスケットによって街並みを美しく飾り、訪れる人々や観光客をおもてなしする園芸文化は羨ましくもあり、カルチャーショックでもあった。日本の観光地や街中にあふれる派手な看板やノボリ旗、そしてクモの巣のような電線を見るにつけ、街並み景観とガーデニングの今後の課題を感じさせられた。

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Credit

写真&文/遠藤 
30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。現在は、川崎市緑化センター緑化相談員を担当しながら、コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施。園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)。

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