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オーガニックコスメのパイオニア「ヴェレダ」社のハーブガーデン・レポート!

オーガニックコスメのパイオニア「ヴェレダ」社のハーブガーデン・レポート!

スイスに本拠地を置く化粧品・医薬品メーカー、ヴェレダ(WELEDA)。オーガニックコスメのパイオニアとして、自然由来の成分からなる、フェイスケアやボディケアなどさまざまな製品を販売し、日本でもショップを展開するなど高い人気があります。そんなヴェレダ製品の原料となる植物には、実は自社のガーデンで栽培しているものも。日本在住のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんが、ドイツにあるヴェレダの自社ガーデンを訪ねたレポートをお届けします。

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厳しい基準をクリアしたオーガニック製品を製造

皆さんは、ヴェレダの商品を使ったことがありますか? ヴェレダはスイスに本社を置く、ナチュラル・オーガニックコスメブランド。植物一つひとつがそれぞれ持つ力を引き出し、それらを人の美しさや健康へと生かすモノづくりをしています。そんなヴェレダの商品は、製造工程のすべてにおいて、厳しい基準をクリアしたオーガニック製品であることにこだわって製造されており、日本でもショップを展開するなど、高い人気があります。それぞれにシンボルとなる「キープラント」と呼ばれる植物が配合されたヴェレダ製品のラインナップは幅広く、きっと、皆さんの中にも、フェイスケア商品やボディミルクなどの商品を愛用している人がいるのではないでしょうか。そんなヴェレダの製品材料の一部は、実は自社農園で生産されていることはご存じでしたか? 今回は、あらゆる生き物がのびのびと生きる、ドイツにあるヴェレダのハーブガーデンをご案内します。

カレンデュラなど、さまざまな薬用植物が育つ広大なヴェレダの自社農園。

ヴェレダの創業と人智学

ヴェレダの創業は1921年。「人間は自然と調和して生活すべきである」と考える人智学(アントロポゾフィー)の創始者で、教育や建築などでも知られるオーストリアの哲学者・自然科学者のルドルフ・シュタイナーと、オランダ人の医師イタ・ヴェーグマン、ドイツ人化学者で薬剤師でもあったオスカー・シュミーデルにより創設されました。教育と研究という、それぞれ異なるアプローチからアントロポゾフィーの活動をスタートさせた彼らに共通する理念は、医薬品は自己治癒力に刺激を与えるものであるべきというもの。彼らの持っていた「人と自然との調和」というモットーは、設立当初から変わることなく企業の理念として生き続けています。

3人はヴェレダの設立以前より仕事での関わりがあり、ヴェーグマン医師とシュミーデル博士の共同研究により生まれたものの中には、今なお用いられている自然医薬品もあります。そして1921年に、ゲーテアヌムにあったシュミーデル博士の実験施設を引き継いで化学と医薬品の製造研究所に合併し、同年に近隣のアーレスハイムに会社を移転したことが、現在のヴェレダの始まり。その後、ヴェレダという社名が生まれたのは1928年。紀元初頭に治療を行っていたといわれるゲルマン人の女性司祭で、預言者でもあったVeledaの名に由来しています。ちなみに、現在も使用されているヴェレダのロゴマークは、医療・医術を象徴する「アスクレピオスの杖」を様式化した、シュタイナーによるデザインなんですよ。

多種多様なハーブが整然と育つ広大な自社農園。

さて、そんなヴェレダがつくりだすオーガニックコスメとアントロポゾフィー医療の医薬品は、厳しく選び抜かれた原材料を用いて生産されています。世界中に契約農家を持つのはもちろん、自社のハーブガーデンでも多くの植物を栽培し、原材料として利用しているのです。ヴェレダの自社農園は、ドイツやスイス、イギリス、ブラジル、アルゼンチン、ニュージーランドなど、世界中のさまざまな場所に存在しますが、その中でも最も大きく、ヨーロッパ最大級の植物園であるのが、ドイツのシュヴェービッシュ・グミュント北方の高原にあるハーブガーデン。20ヘクタールの広さに260種の植物が栽培され、そのうち180種はヴェレダの医薬品や化粧品の原料となっています。管理と手入れが行き届き、美しいこのガーデンを訪ねた模様をご紹介します。

私の暮らしとヴェレダ

ドイツ南部のシュヴェービッシュ・グミュントにあるヴェレダのガーデン。写真は入口から伸びる道の脇に実る、黄金色のオーツムギ。

私がヴェレダのガーデンを訪れたのは、8月上旬、ドイツでもちょうど夏の盛りのことです。この取材は、仕事である以上に個人的にもとても楽しみにしていたものでした。もともと私は、ヴェレダの製品の愛用者。子ども時代からヴェレダは私にとって、とても身近なものでした。

ドイツ南部で育った私はいつも豊かな自然に囲まれて子ども時代を送り、また、私の家では口にするものや肌につけるものは、基本的に自然由来のものを選んでいました。体調を崩した際にも、まずは自然由来で効果が穏やかなホメオパシーの薬による治療を。また、母と私は敏感肌でもあり、ほとんどの一般製品は肌に合わなかったということもあります。私は、母がメイクや口紅をつけているのを見たことがありません。そのため、基礎化粧品も自然由来のものを選ぶようにしていました。そんな私たちが利用していた医薬品や化粧品の多くが、ヴェレダの製品だったのです。今でもホワイトマローのベビークリームやザクロのローション、アルニカのシャワージェルなど、ヴェレダの製品は私の暮らしには欠かせません。

涼しげに水が流れるガーデンの一角。

そんな理由もあり、この日はとてもワクワクしながらガーデンへと向かいました。今回訪れるヴェレダのガーデンがあるシュヴェービッシュ・グミュントは、ドイツ南部にあり、シュツットガルトから東に55㎞ほどの場所に位置しています。家から3時間以上車を走らせましたが、到着まで待ち遠しく、体感時間はそれ以上。その日は霧がひどく、ドナウ川沿いの前方の車が見えないほどでしたが、シュヴェービッシュ・グミュントに到着した時、ちょうど太陽が顔を出し、忘れがたい一日が始まりました。

ドイツにあるヴェレダの自社農園

もこもことしてかわいいヒツジの姿も。写真提供:WELEDA
見ているだけでも造形が面白い蒸留装置。

駐車場に車を止めると、ビジターセンターへと気持ちのよい道が伸び、右手にはヒツジがのんびりと草を食んでいました。なんて美しく、穏やかな光景なのでしょう! また、シラカバ林の間には大きな蒸留器が設置され、その一角はまるで屋外にある博物館のような雰囲気を漂わせます。さらに道を進むと、道の右手に、製品工場の姿が見えてきました。

ビジターセンターの周囲には、メドウと木々が茂る生き生きとした緑の景色が続いています。センターは2006年に建設され、内部には非常に明るく開放的な空間が広がっています。壁は、異なる商品ラインを示すさまざまな色にペイントされていて、とてもカラフル。ショップの端には、ちょっと一息を入れるためのテーブルと、小さなカフェカウンターが備え付けられ、建物の外には池の見える景色のよい場所に、ウッドデッキが設置されています。池の周辺には、ワイン用に栽培されていたブドウと、クリの木でできた木製のフェンスが立ち、たくさんの宿根草が植栽されています。ビジターセンター内では、ヴェレダの製品のさまざまな説明を聞いて、実際にトリートメント体験もでき、至福の時間を過ごしたのですが、そのレポートは次回に譲ることにしましょう。

ブドウの枝とクリの木でできたユニークなフェンス。

ヨーロッパ最大規模のバイオダイナミック農園でもあるヴェレダのハーブガーデン

太陽のシンボルを表すヤナギの門。太陽は暖かさと光、そして生命を表します。

さて、ビジターセンターから出てさらに道をたどると、いよいよ目的のWELEDA HEILPFLANZENGARTEN(ヴェレダのハーブと薬用植物のガーデン)の入口に。60年以上前につくられたこのガーデンは、20ヘクタールもの広さを誇る敷地いっぱいに多様な植物が育つ、ヨーロッパ最大規模の植物園。豊かな土壌には、3~10月まで季節を通じてさまざまな花が咲き競います。ガーデンには25種の樹木を含む、一年草や宿根草など260種の植物が栽培され、その中から180種が製品材料として利用されています。製品材料として使われるものはさまざまで、樹皮、花、果実、根など植物のすべてが収穫されています。植物はどれも管理が行き届き、きちんと列ごとに植栽されて、正確なプランツタグもついています。ガーデンの中にはスローベリーやハマメリス、サンザシといった植物はもちろん、ガーデン内に咲く花々を目指して、ハナアブやテントウムシなどの益虫も集まり、動物や鳥も植物とともに共生しています。

門をくぐって振り返った景色。さまざまな木々と宿根草が、ビジターセンターの外壁によく映えます。
白い花を咲かせる満開のナツユキカズラのトンネルの下には、日陰を好むシダ植物が植わっています。こんなところにも独自の工夫が見られます。
ヒマワリなど、植物の種類ごとに列を整えられたガーデンの一角。
満開のエキナセアの花。エキナセアも風邪などに効果があるといわれるハーブの一つで、ガーデンでもポピュラーな花です。

このガーデンは、ヴェレダ最大の自社農園であると同時に、ヨーロッパ最大規模のバイオダイナミック農園でもあります。バイオダイナミック農法とは、シュタイナーによって提唱された有機農法・自然農法で、生産物が有機栽培であるだけでなく、農園全体を一つの有機体とみなし、その中で完結する循環型の農業手法のこと。作物以外の植物の有効性も認めているので、直接の収穫対象とならない植物も作物と同じように育っています。また、殺虫剤や除草剤、駆除剤、殺菌剤などは使用されていないため、ミツバチやアヒルといった虫や動物もガーデン内に生息し、植物や動物、虫たちの生態系が整う、生き生きとして、調和にあふれたガーデンをつくり出しています。日々の水やりに利用されているのは、貯水池に貯められた雨水。また、ガーデン内では、シェードガーデンに向く植物のために日陰をつくるつる植物や、風よけのための生け垣など、植物の特性を生かし、互いに生育しやすい環境を整えるための工夫が至るところに見られます。

ガーデン内にある水場のそばでは、花々に交じって水鳥たちの遊ぶ姿も。
かつては植物からチンキをつくるのに利用されていたセラミックタンク。現在はステンレスのものが使われているため、ガーデンのオブジェとして利用されています。
益虫たちが住処とするためのインセクトホテル(バグホテル)。

バイオダイナミック農法では、植物は自然の生育リズムに従って栽培され、さらに作業は人の手により行われます。ヴェレダでは、この美しいガーデンを管理するために、常時20人以上のガーデナーが働いています。また、近隣でシュタイナー教育を行うウォルドルフ学校の7年生の生徒たちが、授業の一環として折々にガーデンでの仕事をしていくこともありますし、ハーブガーデンで講義を行う大学もいくつかあります。このヴェレダのハーブガーデンを訪れる際には事前予約が必要ですが、予約するとガーデンガイドが丁寧に解説をしながら敷地内を案内してくれます。ドイツを訪れた際には立ち寄ってみてはいかがでしょうか?

1本の大きなヤナギの木で囲われた、気持ちのよい休憩スペース。中から見上げても素敵な景色。

次回は、ヴェレダのショップでの体験記をお届けしましょう。

併せて読みたい

バイエルン州に実る緑の黄金 ビールづくりに欠かせない美しいホップ
世界のガーデンを探る旅1 スペイン「アルハンブラ宮殿」

Credit

ストーリー&写真/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子ども向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。

協力/WELEDA

取材/3and garden

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