家づくりをするとき、一番大切にすることはなんでしょう。間取り、収納、外観、予算。人それぞれにこだわるポイントは違いますが、群馬県W邸の場合、それは「毎日、部屋から眺める景色」でした。家族が集まる部屋から最も美しい景色が眺められるよう、家の新築と同時に行ったW邸の庭づくりをご紹介します。

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建築家と造園家のコラボによって生まれたピクチャーウィンドウ

春、庭一面に咲く何百球というスイセンの群落。それが終わる頃に甘やかな芳香を振りまいて咲くロサ・バンクシアエ・ノルマリス。次々に花開くバラ、宿根草、花木。その間を忙しなく行き交う蝶やミツバチ。木々の梢を渡る風と鳥たち。W邸のダイニングの窓は、移りゆく庭景色を生きた絵画のように映し出す、文字通りのピクチャーウィンドウです。

「毎日、少しずつ変化があって、食事をしながら会話が尽きません」と話すWさんの住まいは、「家と庭の調和」をテーマに建築家と造園家のコラボレーションによって生まれました。窓枠に切り取られる庭風景だけでなく、庭景色の一つとしての家の外観や建物に這わせるつる植物など、内外どちらにおいても家と庭が調和するように、それぞれの専門家が設計段階から協力し、植物が大好きなWさんの理想の住まいづくりは進められました。

ダイニングの窓の側の植栽帯は、緑が絶えないよう常緑の低木を配し、その中に季節の花が色を添えるように計画されている。初夏はジギタリスが花穂を立ち上げて咲く。
バラの葉の上で羽を休めるアサマイチモンジチョウ。
ピンクの花色のエゴノキ。甘い香りを放つ。

庭景色の一つとしての家

庭の背景としても生きるように家の外観も設計。

「しばしば庭は、家ありきで依頼されることが多く、植物が十分に育つだけの日当たりが確保できなかったり、室内からの眺めや排気口、エアコンの室外機など、庭を設計する際、悩ましいことがよくあります」と話すのは、庭の設計・施工を担当した、かたくり工房の阿部容子さん。「でもW邸の場合は、施主が庭のある暮らしを強く希望されていたので、家の設計と同時に庭のデザインも進められ、建築家の方と相談しながら、家と庭、双方のビジュアルも機能も充実させることができました」。

住宅を設計・施工したマイスターハウス代表の山口康雄さん、設計部長の一場方子さんも、阿部さんの造園計画を受け、日当たりが十分確保できる東南へ庭のエリアを確保し、その背景となる家の外観も庭景色に調和するようデザイン。同時に庭を望む窓の配置や大きさなど、室内からの眺めにも重点を置きました。「特に、毎日家族が集まるダイニングルームからは、庭の景色が最もきれいに見えるように、特大サイズの一枚ガラスをはめ殺しの窓にし、この窓枠に切り取られる風景を阿部さんとも入念に打ち合わせしながら、一緒に設計を進めました」。

レンガの外壁に這わせたつるバラの‘ピエール・ドゥ・ロンサール’。

日当たりのよい南側のレンガの壁面には、住宅の設計段階からつるバラを這わせることを予定して植栽帯を設けました。‘ピエール・ドゥ・ロンサール’など、樹勢の強いつるバラを誘引するために、誘引のための構造物も吟味しました。「構造物はデザインも大切ですが、固定する場所や方法も安全性に関わる重要事項です。外壁に不用意に穴をあけると、住まいに重大な損傷を招きかねませんので、そうした構造設計の重要性と植物の性質の双方を理解してくれるベルツモア・ジャパンに制作をお願いして、マイスターさん立ち会いのもと、かたくり工房で設置しました」(阿部さん)。

歩みを誘う庭の小道デザイン

花木やバラは香りの強いものを選び、グラウンドカバーや敷石の間にはタイムなどのハーブを。歩いたり、手入れのために足を踏み入れたりするたびに、足元から香りが立ち上ります。「この庭は、植物が大好きなWさんご自身の楽しみの他に、長い距離を歩くのが難しい奥様が、身近な場所で四季を味わえるようにというご希望がありました。ですから、家の中から眺めて美しいことはもちろん、歩くのが楽しくなる演出もこの庭のテーマでした」(阿部さん)。その一つとして、香りの植物を効果的に取り入れたほか、小道には緩やかなカーブをつけて先への興味を誘い、歩くスピードで風景が変化するよう植栽の色合いも考慮しました。

フレンチローズの‘シャンテ・ロゼ・ミサト’。超強香種。
小型でトゲがほとんどなく、育てやすいイングリッシュローズの‘ウィンダミア’。超強香種。
イングリッシュローズ特有のミルラ香の強い‘アンブリッジ・ローズ’。小道はここで2つに分かれ、花の種類も変わる。
グラウンドカバーには明るい色のリシマキア(ライムグリーン)と香りのよいタイム(ピンクの花)を。

腰をかけて休むスペースも庭の随所に

歩く楽しさを演出するとともに、屋外で過ごす開放感を味わえるように、庭には東屋も設けました。ここでお茶を飲んだり、読書をしたり、アウトドアリビングとして活用しています。また、入り口から家の玄関までのアプローチは風景に変化が生まれるよう緩やかな傾斜をつけ、道の左右には庭の土留めを兼ねた石積みの縁取りを設けました。石積みの途中には半円形の凹みをつけ、腰をかけて休めるベンチにしたのも家人の身体を考慮してのことです。

庭の正面入り口の壁にはイングリッシュローズの‘グラハム・トーマス’を誘引。ここからは庭の全貌が見えないようになっている。
玄関アプローチは家へ向かって緩やかな上り坂で、さらにカーブを描き、入り口から歩いてくると庭の様子が徐々に目に入るよう設計されている。
石積みの途中に腰をかけると、バラがすぐそばで香る。コンパクトな樹姿にまとまったピンクのバラは、イングリッシュローズの‘ボスコベル’。

庭をすぐそばにある自然として

「どこか遠くへ出かけなくても、庭へ出れば毎日、発見があって新鮮なんです。球根の芽が出たとか、蝶のサナギがあったとか、同居する孫たちも庭を身近な自然として親しんでくれていますし、庭があるおかげで親戚や友人も花を見に訪れてくれるし。そういうことも含めて、庭には季節の楽しみがいっぱいありますね」とWさん。

家づくりを考えるとき、Wさんのように毎日目にする窓の外の景色にも少し心を配ってみると、暮らしはぐっと豊かになりそうです。

かたくり工房/岐阜県可児郡御嵩町伏見747
TEL:0574-67-6633
http://www.katakuri.co.jp/

マイスターハウス/群馬県高崎市上中居町337-2
TEL : 027-325-2400
https://www.meisterhouse.co.jp

ベルツモアジャパン(三洋発條株式会社)/栃木県足利市南大町473
TEL : 0284-70-5371(オーダーメイド直通)
http://bellsmore.jp

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Credit

写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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