これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。カメラを向ける対象は、公共の庭から個人の庭、珍しい植物まで、全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第9回はつるバラとオールドローズ、宿根草とクレマチスがとっても可愛いフォトジェニックな長野の個人邸、熊井智恵子さんの庭です。

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宿根草の庭の奥にある道具小屋の屋根には、つるバラ‘アデレード・ドルレアン’とクレマチス‘ベノサ・バイオラシア’。

2017年6月初旬、静岡の「クレマチスの丘」の撮影中に、スマートフォンにメッセージが入りました。送り主は、千葉の流山オープンガーデンに所属する橋本景子さん。「今、長野に来ていますが、熊井さんのお庭がすごくいいですよ! バラの勢いがすばらしいですから、是非行ってみてください」。このメッセージが熊井さんのお庭に伺うきっかけでした。6月初旬は、まだいろいろ撮影の約束が詰まっている時で、連絡を頂いたからすぐ翌日にという訳にはいかなかったのですが、それでも橋本さんが絶好のタイミングを知らせてくれた庭ですし、以前から信州に行く度に熊井さんのお名前はお聞きしていたので、どうにかスケジュールを調整して3日後に向かうことにしました。

‘アイスバーグ’、‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’とハクロニシキの組み合わせがダイナミックで美しいコーナー。

クレマチスの丘の撮影を済ませた後、1泊2日の新潟「国営越後丘陵公園」のバラ園の撮影を夕方までして、その夜のうちに長野のホテルにまでたどり着きました。熊井さんには、「明日伺います」と連絡を入れて早々に就寝です。翌朝5時、少し前に起きてみると、天気はどんより曇り空で、時々小雨も降るという予報。ちょっと残念に思いながらも、とりあえず熊井さんの庭に向かうことにしました。

熊井さんの庭への入り口。ここを見るだけで、素敵な庭であることが十分伝わってくる。

到着すると、駐車場の枕木にはびっしりと咲く‘マニントン・モーブ・ランブラー’が、小さな入り口を挟んで道沿いのフェンスには‘夢乙女’、‘アイスバーグ’、‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’、‘フランソワ・ジュランビル’……。僕の大好きなつるバラが、橋本さんが教えてくれた通り、ものすごい花数で咲いているではないですか!

‘サマースノー’の枝変わり‘春霞’を頭上から垂らして咲かせる素敵な演出。

‘マニントン・モーヴ・ランブラー’と‘夢乙女’の間にある小さな階段を上がると、今度は目の前にのれんのような仕立ての‘春霞(はるがすみ)’が。花ののれんを潜って奥に行くと、左手にはオールドローズの庭。右には2つの宿根草とオールドローズの庭があって、宿根草の花壇の中にペンキの落ちたアンティークタッチの脚立が立っていたり、古い農具が掛けてあったり。まるでイギリスの田舎にでも迷い込んだような気分でした。

‘マニントン・モーヴ・ランブラー’から‘ピエール・ドゥ・ロンサール’までの見事なつるバラの競演。

空を見上げても日が射してくる様子はないのですが、こんな素敵な庭を前にして撮影せずに帰るというのも考えられず、とりあえず撮影を開始。しかし、きれいに咲いているバラの前に立ってレンズを向ける度に、「ここにきれいな光が射していたらな〜」という思いが増すばかり。結局、この日の撮影は熊井さんの庭の記録写真ということにして、「来年は絶対によく晴れた日の早朝に伺いますから」と言って、その日は帰ることにしました。

オールドローズの名花‘シャルル・ド・ミル’。

後日、自宅に戻ってPCに整理した写真を改めて見てみると、バラのコンデションもよいし、仕立ても可愛らしい庭だし、来年は完璧に撮影して、このGarden Storyの連載に登場していただこうと心に決めました。

一年草から宿根草、オールドローズが混植されたエリア。絶妙な光が花々を照らす。

今年も6月に入り、「クレマチスの丘」、「イングリッシュガーデン ローザンベリー多和田」と撮影が続き、いよいよ熊井さんの庭の撮影です。今回は天気予報も晴れ、5時少し前には到着。そーっと車を止めて、まずは‘マニントン・モーヴ・ランブラー’のもとへ。昇りかけた朝陽が斜めから優しく当たって、庭はキラキラと輝き出し、最高に幸せな気分で撮影開始です。

‘アイスバーグ’のフェンスの裏側は‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’のパーゴラが。

フェンスのつるバラは今年もきれいに咲き揃い、間から顔を出すクレマチスも本当に可愛い。熊井さんのバラとクレマチスの趣味は、完全に僕の趣味と一致するな〜なんて思いながら、太陽の位置を確認しつつ、裏のオールドローズの庭に行ったり、表のフェンスに戻ったり。1時間半くらい幸せな撮影をして、熊井さんが「もう終わりますか?」とコーヒーを淹れてくださったところで、日差しも強くなってきたことだしと、撮影は無事終了しました。

近年、新しくつくったというオールドローズの庭。寒冷地で見る‘ロサ・グラウカ’は格別にきれいだ。

この原稿を書くにあたって、熊井さんにいくつかの質問をさせていただきました。「長野の良い点と悪い点は?」については、「良い点は12月の終わりに降った雪が根雪になり、冬の庭は真っ白な世界。ガーデニングは何もできません。だからこそ春になって雪が解けて、お庭に出られる喜びが大きいんです」と。雪国の方は、皆さん同じことをおっしゃるんだな〜なんて思いながら回答の続きを読むと、「悪い点は思いつきません」とのこと。雪国でバラの庭をつくることは、暖地の何倍も大変なんだろうと想像していたので、「思いつかない」という熊井さんの長野愛の深さに、ちょっと感動しました。

「優しい色合いで繊細な感じがするからオールドローズが好き」と言う熊井さん。今後はグラス類を増やしていきたいそうです。信州にはそうした宿根草やグラスの素敵なお手本になる庭も沢山あるので、熊井さんの庭もますます素敵に進化していくのだろうなと思います。また2〜3年後の晴れた日の早朝に、撮影に伺いたいと思いました。

 

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Credit

写真&文/今井秀治
バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ローズカレンダー』も好評。

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