日本庭園やイングリッシュガーデン、整形式庭園など、世界にはいろいろなガーデンスタイルがあります。世界各地の庭を巡った造園芸家の二宮孝嗣さんに案内していただく歴史からガーデンの発祥を探る旅。第12回は、イギリスにある「ペンズハースト・プレイス・アンド・ガーデンズ(Penshurst Place and Garden)」を解説していただきます。

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ガーデニングの本場といわれるイギリスの庭の発祥とは

イギリスの庭の歴史はいつ頃から始まったのでしょう? これまで、イスラムの庭からイタリアルネサンス、そしてフランスオランダとヨーロッパ大陸での庭の連綿たる歴史を見てきましたが、イギリスではどうだったのでしょうか?

イギリスの南部にある世界遺産、ストーンヘンジ。Photo/jaroslava V/Shutterstock.com

そもそもこの地には、石器時代から先住民が住んでいました。有名なストーンヘンジはその頃(紀元前2500〜2000年頃)のものです。その後、ケルト人が紀元前から住み着きました。紀元後になるとローマ帝国に侵略(西暦43年)され、その後4世紀まで支配されます。今でもイギリス南部にはローマ時代の遺跡や村が所々に残っています。その後、ゲルマン人やバイキングなど、さまざまな外圧、支配を受けながら現在の大英帝国(Great Britain)になっていきますが、その辺りの詳しい説明は、歴史の教科書に任せましょう。

イギリスに現存する庭の中で、最も古いものの一つ

Photo/Duncan Andison/Shutterstock.com

そこで今回ご紹介したいのは、僕の大好きな庭の一つ「ペンズハースト・プレイス・アンド・ガーデンズ」です。きれいに手入れが行き届いたこの庭は、イギリスで現存する庭の中で最も古いものの一つとされています。

Photo/Bennian/Shutterstock.com

ここでもう少しイギリスの歴史についてお話ししましょう。イギリスは11世紀から約200年に渡って行われた十字軍に参加し、帰還した兵士たちがイスラムの文化をいろいろ持ち帰ったと思われますが、この庭の歴史がはっきりしてくるのは、その後半の13世紀のイタリアルネサンスが始まった頃からです。ペンズハースト・プレイスがあるこの地は豊かな丘陵地帯で、ロンドンから馬で半日の距離にあるという立地条件も含めて、別荘としても便利なことから選ばれたようです。建物は14世紀にほぼでき上がり、建物の前にあるイタリア式整形庭園と、そこに続くウォールガーデンがつくられたようです。また、この庭は多くの詩や物語の中にも読まれていることでも有名です。

ペンズハースト・プレイスの散策を始めましょう

屋敷へ続くオークのアプローチ。

1554年に植えられたという記録が残るオークのアプローチです。このアプローチを歩いていくだけで、左側の城壁の向こう側に展開する庭への期待感が、歴史をバックにした重々しさとともに強まります。

屋敷の前庭にあるのはイタリア式フォーマルガーデン。
屋敷側から見たイタリア式庭園の全体。

屋敷の前は、この地の緩い傾斜を巧みに利用した一種のサンクンガーデン(沈床式花壇)になっています。この庭は整形式の中でも正方形に近い形で、草ツゲの段になった低い刈り込みの緑とピンクのバラを組み合わせて、他では見られない独特な雰囲気を醸し出しています。庭の向こうに低く連なる遥かな丘陵を巧みに借景として利用することで、高い場所に位置するこの地が、大きく広がる天上の楽園(ユートピア)を表しているような気がします。

庭の横に置いてあるベンチが、いかにもイングリッシュガーデンといった趣です。

イギリスらしい色彩調和が随所に見られるボーダー花壇

イタリア式庭園へ続くボーダー花壇。

城壁の南側に続くボーダー花壇には、日本ではちょっと考えられない、日向が好きな植物と日陰が好きな植物の組み合わせ。淡い色のヘメロカリスが咲き、その足下には斑入りのホスタやボリジ、ニコチアナ、ラベンダーなどが咲いています。もうすぐアガパンサスも咲きそうです。ボーダーの左側には、イチイの生け垣がその背後の花壇を隠すように茂っています。

ボーダー花壇の端には小さな池があり、屋敷の明るい色の石壁に銅葉のノムラモミジが映え、広い空間のアクセントになっています。スクエアのポットの中心にはスタンダード仕立ての月桂樹、その株元に薄黄色のペチュニアと控えめな紫のロベリアを組み合わせる色彩センスは、イギリスらしさを感じさせます。

他のエリアにあるボーダー花壇。

ここでは、赤いスモークツリーを中心に、ペンステモンや黄花のツキミソウ、白いフランネル草や2種類のゲラニウム、金露梅に白い花のブッシュはエリカでしょうか? 低木と宿根草がうまく立体的に混じり咲いています。左側はアスター、アルケミラモリス、そして自然樹形に伸びた白バラが見えます。

刈り込んだイチイのヘッジ(生け垣)に囲まれたバラ園

シンメトリーにデザインされているバラ園。中央奥にはベンチを配置。

イチイの生け垣を抜けるとバラ園があります。白バラ‘アイスバーグ’のスタンダード、その株元はシルバーリーフのラムズイヤーがカーペットに。視線の先には、アイストップとしてアイボリーホワイトのベンチが配され、素敵な空間を演出しています。

ラムズイヤーのカーペットの左右には、きっちり四角くトリミングされた赤い葉のバーベリス(メギ)の生け垣があり、中にはオレンジ色のバラが植えられています。バラ園の中に、銅葉のバーベリスを使い、さらにはオレンジ色を組み合わせる例は他に見たことがありません。僕個人としては、もう少しヘッジを低く刈り込むか、バラをハイブリッドティーのような背の高い種類にすれば、より調和の効果があるような気がします。

モダンで面白いオブジェがリズミカルなツゲのノットガーデン。

小道を進むと、優しいカーブを描く低いツゲの模様の繋がりが楽しい細長いガーデンが。ヘッジの中にラベンダーが咲き、トーテムポールを思わせるモダンなオブジェがアクセントになっています。ポールの頭には、赤いドラゴンやその他の動物が象られていますが、もしやこのシドニー家の家紋の動物でしょうか? イギリスでもっとも古いとされる庭で、こんなモダンな演出に出合ったことに驚きました。ツゲの外側は、背丈より高く仕立てられたリンゴやナシのエスパリエで視線が遮られていることで、よりポールが引き立って見えます。

イチイのヘッジ。

今見た庭から次の庭へと導く道の左右には、きれいに刈り込まれたヘッジの壁があります。これは、前の庭のイメージをシンプルな空間に入ることでリセットさせて、次の庭へ進むことができるイギリス独特の仕掛けです。

噴水のあるオランダ式庭園。

このエリアは、緑のイチイの生け垣で周囲をぐるりと囲み、真ん中に真四角の池があるというシンプルな庭です。池に咲く睡蓮が、この庭デザインの人工的な構図を和らげてくれています。庭としては、ある意味とても大胆なデザインです。一条の噴水が何か物悲しげな感じがします。

ペンズハースト・プレイスで一番華やかな庭

花色で浮かび上がるユニオンジャックの庭。
別の角度から見たユニオンジャックの庭。

睡蓮が咲く池の隣のエリアは、なんとユニオンジャックの庭です。青地に白のクロスのスコットランド、白地に赤のクロスのアイルランド、白地に赤の十字のイングランドの旗が重なってできた現在のグレートブリテン及び北アイルランド連合王国(イギリスの正式な国名)の旗が浮かび上がる花壇です。何度か訪れたなかでも、初めてユニオンジャックに見えた時の写真です。紅白のバラとイングリッシュラベンダーが同時に咲くことで成立する植栽デザイン。この遊び心、なかなか真似できませんね。

庭門。
遊びの広場。

さまざまな庭デザインのバリエーションが敷地内に凝縮している「ペンズハースト・プレイス・アンド・ガーデンズ」。14世紀に建てられた邸宅としては保存状態もよく、内部の部屋も一般公開されている観光名所で、貴族の日常がどのようなものであったかを知ることができる貴重な場所。いにしえに思いを馳せながら庭をあとにすると、駐車場横には、子どもたちの歓声が響く賑やかなアドベンチャー公園が。その元気な声が、人々に愛されている生きた場所なんだと、この庭の今を感じさせてくれました。

Credit

写真&文/二宮孝嗣
長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表で造園芸家。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。

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