花や野菜は、肥料をたっぷりあげないとうまく育たない──。そう思っていませんか? けれども、それは大きな誤解。植物の中には「いや、そのようにお構いくださるな」「どうぞ放っておいてくだされ」という種類もあるのです。そして、肥料をやらなくても、きれいに咲き、豊かに実ってくれるのだから、植物って、本当に不思議!

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父と朝顔

私の父は東北の田舎町の貧しい商人にすぎなかったけれど、毎年夏、玄関先に朝顔を植えて楽しんでいた。

父は早く死んだ。その一生は決して幸福なものではなかった。私は、早朝、朝露に濡れて咲いている朝顔の花を見ると父のことを思い出す。

咲かなかった‘ヘブンリーブルー’

ところで、庭でイングリッシュローズの‘ウィリアム・モリス’の隣に西洋朝顔の‘ヘブンリーブルー’を植えたときのこと──。

園芸用の一番長い支柱を4、5本使い、オベリスク風のものをつくって、そこにつるを絡ませようとしたのだけれど、葉っぱばかり繁って花がなかなか咲かない。

緑色の肉厚の葉っぱは、やがて高さ約2mの手づくりオベリスクをすっぽりと覆い尽くした。だが、結局、花は一つも咲かなかった。

その‘ヘブンリーブルー’を切り倒し、オベリスクを解体するときの、何と悲しかったことか!

肥沃な土壌は嫌い

花が咲かなかった原因──。

それは、植えた場所が悪かったのだ。

バラは肥料と水を好む。だから定期的に有機堆肥や油粕や骨粉や水肥をやって、株元がなるべく肥沃になるように心がける。

だが、朝顔は多肥を好まない。むしろ痩せ地のほうを好む。であるからして、‘ウィリアム・モリス’は、のすぐ側に植えた‘ヘブンリーブルー’は、葉っぱばかり繁って花が一つも咲かないという結果になったのだ。

ナスタチウムも痩せ地が好き

ナスタチウムは私の大好きな花の一つ。

毎年必ず、庭のあちこちにタネを播いて、夏から秋遅くまで黄色や赤やオレンジ色の花を咲かせてくれるこの一年草の優雅な風情を楽しんでいる。

時には花を摘んでサラダに入れたりもする。見た目にも美しいし、ナスタチウムの花にはピリッとした風味があるので、サラダのいいアクセントにもなる。

このナスタチウムもあまり多肥を好まない。朝顔と同様、痩せ地型の植物で、肥料をやり過ぎると葉っぱばかり繁って、花が咲かないという結果になる。

農家の庭先で気がついた!

肥沃な場所よりも、痩せ地を好む植物は結構多い。

ある有名な女性の園芸家にインタビューしたときのこと。広大なガーデンを持ち、自らそのデザインもしている彼女が、こんな話をしてくれた。

「庭の奥に葉鶏頭がたくさん繁っている場所をつくりたいと思って、植えてみたんだけど、全然うまくいかないのよ。それで、ある日、農家の庭先を通りかかって、ようやく気がついたの。ああ、葉鶏頭も痩せ地型の植物なんだ、あんまり肥料をあげちゃいけなかったんだって」。

葉っぱばかりが繁って

枝豆──。

ビールのおつまみに最適。とくに採れたては香りがよく、甘みも強くて、とてもおいしい。だが、収穫後、日が経つにつれて枝豆は香りがなくなり、味が落ちていく。

ある年、長野県松本市郊外の山里に畑を借りたときのこと。そこは固い粘土質の、ひどい土壌の場所だったが、1年目は枝豆が素晴らしくよくできた。ところが、翌年は葉っぱばかりが繁って、実の入ったサヤが一つもできなかった。

田んぼの畦道に枝豆

枝豆にサヤができなかった原因は、畑の土が肥沃になってしまったこと。

普通、畑では秋の収穫が終わると、土の天地返しを行い、有機堆肥をたっぷり入れて、いわゆる団粒状の、ふかふかの土壌にしようとする。そうしないと野菜がうまく育たないからだ。

けれども、それをやると土が肥え、枝豆には不向きな土壌になってしまう。

だから、昔の農家はよく田んぼの畦道に枝豆を植えたものだった。水田には肥料を投入してあるけれど、畦道は雑草だらけで肥料分がほとんどない。枝豆は、そういう場所に植えてもらったほうがうれしいのだ。

田んぼの畦道に枝豆──。

そんな風景を記憶している人は、今はもう少ないだろうと思うけれど。

「草ボケ」という現象

トマトやナスも苗がまだ幼いときに肥料をやり過ぎると、ひょろひょろと頼りなく草丈が伸びるだけで、花が咲かない。花が咲かなければ、実はならない。

そういう状態を農家は「草ボケ」といっている。そして、一度草ボケしてしまった苗は回復が難しいので、その年の収穫はほとんど望めない。

可愛がりすぎは禁物

私たちは、たくさん花を咲かせようとして、あるいは野菜をたくさん実らせようとして、つい肥料をやりすぎてしまう。

だが、肥料は必ずしもたくさんやればいいというものではない。大事にして可愛がっているつもりでも、むしろそれが逆効果になることもある。そして中には、肥料をあまり好まない植物、痩せた土壌のほうが好きな植物もあるということを覚えておこう。

Credit

文/岡崎英生(文筆家、園芸家)

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