花や緑に親しみ、季節感に溢れる暮らしを訪ねる「私の庭・私の暮らし」。今回は5年前にバラに魅せられ、住宅街の戸建ての小さなスペースでガーデニングを始めたYさんです。植物にさほど興味がなかったというYさんは、ひょんなことからバラを育てる喜びを知ることになります。限られたスペースにあれこれ工夫を重ねている、ご近所でも評判の小さなバラの庭を訪ねます。

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はじまりは2株のバラ

最初に植えた‘バイランド’。丈夫でよく咲き、Yさんオススメのバラ(*)。

神奈川県藤沢市、一戸建てが立ち並ぶ閑静な住宅街に、Yさんの小さな庭はあります。玄関前の花壇を中心に、道路に面したスペースに鉢植えをたくさん並べたオープンなつくりで、バラの季節になると、道行く人はその美しさに思わず目を向けていきます。

Yさんのバラ物語が始まったのは5年前、新築の家に越して来た時でした。それまで園芸にはさほど関心がなく、地植えが唯一可能な玄関前の花壇も、業者にお任せでした。しかし、そこに転機が訪れます。花壇に植わっていたコニファーを目にしたお母様が「コニファーは大きく育つから、この場所にあるといずれ困るはず」と、すっぽり抜いてしまったのです。

最初に植えたバラの一つ、四季咲き性のブッシュローズ‘ボレロ’(*)。

花壇にあいた穴に困ったYさんは、憧れのバラでも植えてみようかと思い立ちます。そして、バラ専門店の「京成バラ園」に赴いて、初心者でも育てやすい丈夫なバラを教えてもらいました。すすめられたのは、明るいピンクの‘バイランド’と、優美な白バラ‘ボレロ’。どちらも病気に強い四季咲きのフロリバンダ種で、コンパクトなサイズ感も玄関先のこの場所にぴったりでした。

‘バイランド’にカンパニュラやジギタリスなどの宿根草が寄り添う花壇(*)。

‘バイランド’は日当たりのよい花壇を気に入ってくれて、順調に育ちました。今もよく咲くその姿は、通りがかる人々に陽気に挨拶する看板娘のようです。白い‘ボレロ’のほうは、日当たりがよすぎたからか一時弱りましたが、郵便受け脇の半日陰に移すと健やかに成長するようになりました。

はじめの2株がうまく花開いたことで、バラは思ったよりも丈夫で、意外と簡単に育つのかな、と感じたYさんは、バラの世界にどんどん魅せられていきました。

赤いバラに心惹かれて

左は可愛らしい印象の‘ロートケプヘン’。右は華やかな‘ジークフリート’。

それからは気になるバラを、一つ、また一つと増やしていきました。玄関前の花壇にはスペースがなくなったため、鉢植えでの栽培も始めました。手塩にかけたバラがきれいに咲いた時の喜びと達成感を知ったYさんは、バラの栽培にますます熱中していきました。

ノスタルジックな花姿の‘ロートケプヘン’。丈夫な四季咲き性のフロリバンダ種(*)。

ある年は、赤いバラに心惹かれて、赤いバラばかりを買い求めました。ドイツ語で「赤ずきんちゃん」という名の通り、赤いケープをまとったような愛らしい姿の‘ロートケプヘン’に、明るく華やかな赤が印象的な‘ジークフリート’。「赤いバラは、白やピンクの柔らかな色合いの景色を、ぐっと引き締めてくれるんですよ」と、Yさん。

家の周りをバラの回廊に

フェンスに仕立てた白バラ‘ブノワ・マジメル’と、ピンクの‘ビアンヴニュ’(*)。

鉢植えの置き場所もなくなったので、今度は家の外周の地面を利用しようと土を耕し、つるバラを植え込んでアーチやオベリスクに立体的に仕立ててみることにしました。玄関脇から家の西側を彩るのは、フェンスに絡まる白バラ‘ブノワ・マジメル’と、ピンクの‘ビアンヴニュ’。柵の左側にあるお隣さんの花壇とコラボレーションしています。

玄関脇の‘ブノワ・マジメル’が花盛り。日本生まれのバラでYさんのお気に入り。

家を囲む通路の幅は、わずか80㎝。隣家の半日陰になる場所ではありますが、Yさんの日頃の観察と手入れによって、バラたちはよく花をつけ、美しい花の回廊が実現しました。

回廊の東側を彩る‘バフ・ビューティ’。優しい雰囲気がYさんは大好き。
クリーム色からピンクへのグラデーションが美しい‘ピエール・ドゥ・ロンサール’(*)。

鉢植えトラブルを乗り越えて

紫のバラ‘ノヴァーリス’。バラと相性のよいカシワバアジサイと。

Yさんのバラコレクションは、5年の間に鉢植えは30株、地植えが20株、計50株を超すまでになりましたが、鉢植え栽培ならではのトラブルもいろいろと体験しました。ある時、6鉢のバラの様子がおかしくなりました。花が咲かず、シュートも出ず、葉にも元気がなくて、成長が止まってしまったかのよう。鉢から出してみると、なぜか土がドロドロになっていて、根腐れをしていると気がつきました。

微かにスパイスやフルーツの香りがする‘ジンジャー・シラバブ’(*)。

さらによく鉢の中を調べてみると、各鉢に決まって2匹のミミズがいました。ミミズは益虫と思って当初は気づきませんでしたが、調べてみると、どうやらそのミミズが犯人。鉢にいたのは、庭の土を耕すといわれるフトミミズではなく、頭の尖った細いシマミミズでした。

有機物を食べるシマミミズが、堆肥や肥料といった餌を求めて近くの鉢にもぐり込み、粘り気のある糞をして鉢土をドロドロにしてしまった、というのが事の真相。シマミミズは、ミミズコンポストに使うには最適ですが、鉢植えに入り込まれるとやっかいなことになってしまうようです。

左:バラ回廊のアーチには花鉢を入れた鳥かごをぶら下げて(*)。右:古い自転車を花台として活用。

バラが休眠期の冬になるとYさんは、被害を受けたバラの根や鉢をきれいに洗って植え替えをしました。虫が苦手だったYさんですが、いまや愛するバラを救うためなら、シマミミズやコガネムシの幼虫退治もできるように。美しく咲くバラの姿を求めて、手探りの試行錯誤が続きます。

バラが広げてくれる世界

バラの季節はブーケをつくるのが日々の楽しみ(*)。

バラの季節になるとYさんは、次々と咲く花を惜しげもなく摘んではブーケをつくって、友人やご近所さんに贈ります。「庭咲きのバラは、いろんな色を合わせても不思議とうまくまとまるんですよ」とYさん。うっとりするようなブーケのおすそ分けは、みんなを幸せな気持ちにします。

フランスのバラのナーセリー、ギヨー社の‘シャルル・ドゥ・ナーヴォー’。優しい色合いの深いカップ咲きには花弁がびっしり。

庭づくりを始めたことでYさんには、園芸の師匠と仰ぐご近所さんや、憧れのナチュラルガーデンを持つマダムといった、素敵な花友だちができました。最年少の花友さんは、近所に住まう幼稚園児の男の子。パンジーの押し花を教えてあげたり、一緒にローズマリーの香りを嗅いだり、小さな庭で花好き同士の楽しい時間が生まれます。Yさんにとってこの庭は、日々のささやかな幸せとみんなの笑顔を運んでくれる、かけがえのない空間です。

Credit

写真/Yさん 

写真(*)&文/ 萩尾 昌美 (Masami Hagio)
ガーデン及びガーデニングを専門分野に、英日翻訳と執筆に携わる。世界の庭情報をお届けすべく、日々勉強中。5年間のイギリス滞在中に、英国の田舎と庭めぐり、お茶の時間をこよなく愛するようになる。神奈川県生まれ、2児の母。

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