初夏に咲く花の代表といえば、バラ。花の女王という別名にもふさわしく、華やかな美しい姿と豊かな香りを持つバラは、世界中の人々に愛されています。膨大な数の品種が存在するバラですが、その好まれる姿は国によって少し差があるよう。ドイツ出身のエルフリーデ・フジ=ツェルナーさんから、ドイツのバラにまつわるストーリーをお届けします。

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ドイツで人気の高い赤いバラ

ドイツでも、もちろんバラは人気の高い花。私も大好きです。

私にとって、バラ、といえば、やはり思い描くのは赤いバラ。20年ほど前からバラの品種バリエーションも増え、ピンクや薄い紫色など、さまざまな色を見かけるようになりましたが、ドイツで一般的なのは赤いバラです。赤色以外のバラも、基本的にはっきりとした色合いのものが好まれているよう。柔らかいニュアンスカラーが人気の高い、日本のバラ事情とは少し違いますね。

ドイツの人々にとって、バラはとても身近な存在。バラの花が咲く季節になると、道路と歩道との境や公園など、街中のあちらこちらで赤い花が開き、街を華やかに彩っています。街中に植えられるバラは、どれも丈夫であまり手がかからない品種が選ばれているので、毎年きれいに咲く姿が楽しめます。ドイツには、‘アイスバーグ’を作出したコルデス社、‘ブルー・ムーン’を作出したタンタウ社といった、世界的に有名なバラのナーセリーがありますが、ドイツのバラは丈夫で育てやすいものが多いということでも有名で、このような公共の場を彩る樹木として活用されています。もちろん、これらの会社も、美しい真紅のバラ品種を作出しています。ドイツの英雄叙事詩に登場する主人公の名をとった‘ジークフリート’など、ドイツならではの名前を持つバラも多く、名前を見ているだけでも面白いですね。

‘Gebrüder Grimm’という名のバラ。童話集で有名な、あのグリム兄弟という意味の名です。ドイツでは、「‘Märchenrose(物語のバラ)’」という別名で呼ばれることも。

ガーデンやバルコニーを彩るバラ

私が一番好きなバラは、クラシックな花形の赤いバラ。こういった花の好みには、子どもの頃の思い出が反映されるものなのでしょうか。まだ幼かった頃、ドイツで暮らしていた家の前にはバラのボーダー花壇があり、たくさんの赤いバラが咲いていました。いくつかは枝を伸ばして壁や窓に寄り添いながら咲いていて、クリームホワイトの家と、バラの赤色とのコントラストがとても美しかったことを覚えています。昼食をとる時には、ダイニングの私の椅子からバラが咲き誇る姿が窓越しに見え、まるでローズガーデンの中に腰を下ろしているかのようでした。そんな思い出があるためか、私は当時育てていたような赤いバラが大好きです。

私の家でも育てていたように、ドイツでは、バラはよくガーデンに取り入れられています。庭がある人は地植えに、なければバルコニーやベランダで育てている家をあちこちで見かけます。ドイツでは、珍しい品種をコレクションしたり、たくさんの品種を育てるよりも、ガーデン風景に合うようにお気に入りのバラを育てる人が多く、それぞれが自分のスタイルに合った美しい景色をつくっています。かつては同じ色、特に赤色のバラを一品種だけ選んで花壇に咲かせることが一般的でしたが、最近では、たくさんの品種があり、どのバラを取り入れるか迷ってしまうほどです。

ボーダー花壇にバラを取り入れて。スタンダード仕立ての真紅のバラに、ブルーサルビアやシロタエギク、ピンクのバラ、マリーゴールドを取り合わせて。
赤いバラだけでなく、ピンクや白のバラもよく見かけるようになりました。青紫色のラベンダーとの相性が抜群。
バルコニーで艶やかに咲くつるバラは、クレマチスと合わせて。

バルコニーでバラを育てる時には、バラが咲いていない時期に寂しくならないよう、ガーデンプランツやデコレーションを取り合わせます。バラと組み合わせる花は、クレマチスが定番。どちらもバリエーションが幅広いので、好みに合わせてそれぞれ選べるのが嬉しいですね。

ちなみに、私の家で咲いていたバラの多くは、今も年に2回美しい花を咲かせ、両親の家を彩ってくれています。父が退職した後は、新聞を取りに行く前に花壇を見て、バラの花がらを摘むのは父の仕事になりました。花がらを丁寧に摘まれたバラは、美しい花を長く咲かせてくれます。秋の最後の花だけは、花がらを摘まずにローズヒップを実らせるのも、私の家のバラの楽しみ方の一つでした。

バラを贈る

ドイツの暮らしの中でのバラとの関わりは、ガーデンのバラだけではありません。さすがにオランダほどの頻度ではないですが、ドイツでも花束を贈ることはよくあります。その中でも真紅のバラは、ちょっと特別な花。大切な人にだけ贈る花です。

私の家では、母の誕生日と母の日、そして結婚記念日には、朝起きて最初にすることは、庭に出て、一番きれいなバラを選んで切ることでした。花瓶に活けて母へのプレゼントにすると、赤いバラが大好きな母は、とても喜んでくれたものです。父は、母の誕生日の前日に必ず花屋さんに行き、ベルベットのような真紅のバラを大きな花束にしてもらっていました。数日経ったら吊るしてドライにし、また花瓶に活けて、次のバラの花束が贈られる日まで、ずっと飾られるのです。

ドイツでは、このように赤いバラを大切な人に贈る習慣があります。ほかにも、久しぶりに会う人に一輪だけバラを贈ることも。ドイツの空港には花屋さんが入っていて、迎えに来た人が、バラを手にして飛行機の到着を待つ光景も見られますよ。

いま私が住んでいる日本の家には、残念ながらまだバラはありません。近いうちに、美しい赤いつるバラを一つ選んで、ガーデンで育てたいな、と考えています。

Credit

話/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。

写真/Friedrich Strauss/stockfood

取材/3and garden

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