日本庭園やイングリッシュガーデン、整形式庭園など、世界にはいろいろなガーデンスタイルがあります。歴史からガーデンの発祥を探る旅。第10回は、オランダにある「ヘット・ロー宮殿」と「キューケンホフ」の庭を中心に解説します。

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前回までフランス式庭園についてご紹介してきました。フランス革命(1789年)により、かのマリー・アントワネットも処刑され、時代は貴族から庶民へと移り、ナポレオンの出現(1799年)によりヨーロッパは大きく動きました。ヨーロッパ中の憧れの的であったフランス式庭園は、イギリスをはじめ、あちこちでつくられるようになっていました。その動きがドーバー海峡を渡る前に、もう少し大陸の中の庭園のお話をしましょう。

オランダ王室の夏の離宮「ヘット・ロー宮殿」

アッペルドーンの郊外の森に囲まれた、美しいフランス式庭園を持つヘット・ロー宮殿。

15世紀、バスコ・ダ・ガマやコロンブスなどの活躍で大航海時代が始まりました。ポルトガルやスペイン、16世紀には、オランダやフランスも加わって、17世紀に入るとオランダ、イギリスが世界の海を支配し、世界中の富がそれぞれの国へ集まってきました。オランダでは、16世紀にトルコで見つかったチューリップが引き金になって、「チューリップ狂時代」が始まりました。

世界中に進出したオランダ大航海時代のシンボルを思わす地球儀の噴水。何て分かりやすい演出!

今回ご紹介する「ヘット・ロー宮殿」も、オランダ大航海時代に、オランダ王室の夏の離宮、狩猟の場所として1684年に建てられ、1975年まで実際に使われていました。広大な庭園は幾何学模様のバロック式庭園です。オランダ人の友達から聞いた話ですが、ナポレオンがフランスから攻め上がってきた19世紀初頭に、その素敵な庭園をナポレオンに見られるのが悔しくて、なんと埋めてしまったそうです。その後、近年になって庭は掘り起こされ、当時のままの姿に再建されて、1975年から貴重な博物館として一般公開されています(2018年1月8日から2021年頃まで宮殿の博物館部分は改修工事のため休館予定。工事期間中は、4〜9月のみ、庭園と厩、レストランのみ一般公開)。

ギリシャ神話の‘ヴィーナスの誕生’とネプチューン、トリトンの噴水。かつてのオランダバブル時代の象徴ともいえる黄金色で光り輝いています。

アッペルドーン郊外の森を背景に、宮殿の各部屋の窓から遠くに見下ろす広大な幾何学模様の整形式庭園。きれいに低く刈り込まれた緑一色の草ツゲの間に、色砂利を敷き詰めて彩りを見せています。

オランダデルフト焼きの独特な青のポットには、日本原産のソテツが植え込まれていました。

春限定の公開庭園「キューケンホフ」

オランダにはもう一つ、必ず訪れてほしい庭があります。それは春の季節にだけ開園する「キューケンホフ」です。

3月中旬から5月中旬の春の間だけ一般公開されるこの庭は、あまりにも有名で、世界中から観光客が押し寄せます。元々ここは、かつてはハーブを育てていたことから「キューケンホッフ(台所の畑)」と呼ばれるようになりました。1949年に「キューケンホフ」があるリッセ市の市長のアイデアにより、球根を使った庭のコンテストが開催されたことをきっかけに、現在のような素晴らしい庭になりました。

シーズンの始まりは、ムスカリの川が出現します。その周りにはスイセン、手前には斑入りのチューリップが植わっています。

実は、この場所は個人の持ち物で、リッセの球根生産者が春の期間だけ借りて、地域の自慢の球根や新品種を植え込んで、商談を進める見本市の要素も持ち合わせているのです。ですから、春の季節が終われば静かな森に戻ります。僕も以前、このキューケンホフで、鳥取の花回廊の寄贈による日本庭園をつくったことがありました。つくった当初は球根は植え込まれていなかったのですが、やはりそこはオランダ。翌年からは、球根で花いっぱいになっていたのです。

リッセ市のカラフルな球根畑

ここリッセは、球根の世界的産地でもあります。キューケンホフへ行くまでに、色とりどりの球根による縞模様の畑を見ることができます。この地域でなぜ球根栽培が盛んなのかというと、すぐ西側が砂丘になっている砂地であること、また偏西風が球根栽培に向いているためだと思われます。

球根の熟成のため、満開になってから花摘みをするので、毎年花のカーペットがリッセ市中に出現します。ただまったく平らな土地なので、空撮でなければこの壮大な景色を見ることはできません。

ムスカリとスイセンのあとは、ヒヤシンス。色合いはぐっと落ち着いて、よい香りが園内に溢れます。

そしていよいよ主役のチューリップが咲き始めると、世界に類を見ない光景で観光客を驚かせます。

球根でいえば、チューリップが終わると百合の季節ですが、ここではヨーロッパブナの芽吹きが始まって、黄緑色の世界が静かに広がり、それまでの華やかさとは打って変わって静かな公園に戻るのです。

Credit

文/二宮孝嗣
長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表で造園芸家。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。

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