これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。カメラを向ける対象は、公共の庭から個人の庭、珍しい植物まで、全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第7回は静岡の個人邸、大須賀由美子さんの庭です。

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‘ギスレヌ・ドゥ・フェリゴンドゥ’とクレマチスの‘踊場(オドリバ)’の組み合わせもおしゃれ。

このサイトへの連載企画が決まった時、僕の頭の中には何人かのグリーンフィンガーさんのお顔が浮かびました。その中の一人が、今回ご紹介する大須賀さんです。2008年5月の晴れた日の早朝、素敵なバラの庭があるとのことで、有島薫先生のご紹介でNHK出版の『趣味の園芸』の編集者さんと大須賀さんのお宅を訪ねました。

グレイがかった葉も魅力の一季咲きのシュラブローズ‘ルイ・リール’。

大須賀さんの庭へ入った瞬間、同行の編集者さんと僕は言葉を失い、ただニコニコしながら歩き回って、やっと交わした言葉は「素敵なお庭ですね」。何種類ものオールドローズやイングリッシュローズが見事に咲き、足元にはさまざまな宿根草が育ち、バラの花の間からはクレマチスが顔を見せるという、まるで絵のような庭でした。

僕もお気に入りの‘バレリーナ’のパーゴラとベンチのコーナー。

僕は可愛いバラを見つけてはシャッターを切り、編集者さんはせっせとメモをとりながら何時間も取材は続き、日が高くなった頃、ようやく終了となりました。その時の取材が『趣味の園芸』編集長の目に留まったのか、その後も冬の庭作業まで含めて2、3度撮影&取材に伺いました。そうして翌年の5月号では、異例の10ページの大特集が組まれることになったのです。

ブルーのデルフィニウムと白花のニゲラ。繊細な草花が上手に育てられている。

この庭は、初めは和風で、野の花のような山野草を植えて楽しんでいたといいます。そんな大須賀さんがバラの庭に目覚めたのは20年前。ガーデニング雑誌や書籍に影響を受けて、とにかくオールドローズが欲しくて、日本橋三越本店屋上のガーデンショップ「チェルシーガーデン」まで出かけて行き、「オールドローズなら何でもいいのですが、何かありますか?」と、1本だけ残っていた‘シャポー・ドゥ・ナポレオン’を買って帰ったのが、ファーストローズだったといいます。

10年前からずっと大須賀さんの庭で定番の宿根草、黒花フウロ。

大須賀さんがお店に行った時は、あいにく有島先生はお留守でしたが、スタッフの方にいろいろ質問をしたそうです。あまりに熱心だったため、「詳しい者がイギリスに出張中で留守にしているので、帰国しましたら連絡をさせます」と言われ、後日、有島先生から連絡があったのをきっかけに、有島先生は大須賀さんにとっての師匠となったのです。「あまりに一生懸命で放っておけなかった」と有島先生は当時を振り返ります。

オーレアのメギに引き立つ青紫のホタルブクロは最強コンビ。奥のデルフィニウムも効いている。

そうして最初の撮影から10年が経ちました。その間も何度かバラの季節にお電話をしたのですが、「今井さん遅い! 静岡はもうバラは終わりよ。もっと早く来て」と、いつもの明るい声で𠮟られてしまいます。多分大須賀さんは、ベストを過ぎた庭は僕には見せたくないのかもしれないし、僕も一番きれいな時に行かなきゃと思っていたので、「すみません、また来年こそ伺います!」と言って電話を切りました。

僕も大好きなガリカローズの‘オンブレパルフェ’を撮っていたら、「この色がちょっと欠ける所が可愛いのよね」と大須賀さん。やっぱり分かっていらっしゃる。

この連載企画でぜひご紹介したいと思っていたので、2018年の今年は、少し早めに連絡をしました。すると大須賀さんは、いつもの明るい声で「ちょうどいいですよ。お待ちしてます」と快諾してくれました。大須賀さんがちょうどいいと招いてくれた庭は、きっと素敵なんだろうなどと期待しながら、午後3時に到着。まだ日差しの強い庭に入ると、そこは10年前と同じく、声を失う美しさでした。でも、以前と違うのは、優しい色合いの可愛い雰囲気から、大人っぽいおしゃれな色合わせの庭に変わっていたことでした。

‘ラウプリッター(ローブリッター)’と鳥の石像。庭の守り神のよう。

1人でせっせと庭を歩き回り、「きれいだな」とつい何度もつぶやきながら、撮影スポットを見つけては太陽の位置を確認。撮影ポジションに三脚を立ててカメラをセットしたら、ベンチで光がよくなるのを待ちます。午後4時過ぎから少し曇ってきた空も、5時になるとさっと日が差し込んできて、いよいよ撮影開始です。

図面/3and garden

大須賀邸は、家をコの字に囲むように東西に細長く庭をつくっています。小道を進みながら日が差し込む方向を見て、撮影ポイントを決定。いい光になるのを待ちながら撮影を進めました。

撮影ポイントC。ブルーの扉を奥に、大人色の植物の調和が見事なコーナー。

まず西側の園路を挟んだ花壇(C)を、南に背を向けてカメラを構えます。左サイドからの夕方の光が、バラや宿根草を輝かせ、庭に息吹を与えます。

撮影ポイントD。奥にバードバスとバラのアーチを備えた、大人可愛いエリア。ブルーのデルフィニウムがアクセントに。

次に、隣のブルーのゲートをバックにしたレンガの園路(D)を、ここも言葉もない美しさで大満足です。東西に長い庭は、逆光になる時間帯なので、またベンチに座って光の感じが変わるのを待ちながら撮影を続けていると、ようやく撮影ポイントのAやBがある場所もいい感じの光になってきました。

右手に、ふわふわと黒花フウロが咲く撮影ポイントB。奥のフェンスのつるバラも満開。

逆光に輝くカラーリーフのコンテナ(B)を撮影して、最後はつるバラの‘レイニー・ブルー’のアーチ(A)を、ハレーション(光線が強く、白くぼやけて不鮮明になること)に気をつけながら撮影して、すっかり大人可愛く進化した、大須賀邸の庭の10年ぶりの撮影は終了しました。

アーチに絡まる‘レイニー・ブルー’がベストタイミングの撮影ポイントA。

撮影の後、ずいぶん庭の雰囲気が変わったと感想を伝えると、「これからもきっと、何かに心打たれてマイブームがやってくると思います。そのマイブームの積み重ねで、庭が少しでも自分にとって居心地のよい場所に成長してくれたらいいな」と、庭についての思いを教えてくれました。大須賀さんの言葉に共感です。

Credit

写真&文/今井秀治
バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ローズカレンダー』も好評。

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