イギリス、ロンドンには、世界的な大都市にもかかわらず、一般市民に開放された美しい公園がたくさんあります。しかも、町の真ん中に。4月の終わり、ロンドンが誇る都会のオアシス、セント・ジェームズ・パークから、バッキンガム宮殿前を経て、緑あふれるグリーン・パークへと、てくてく歩いて巡ってきました。市民の憩う、春の公園をリポートします!

ロンドン最古の王立公園 セント・ジェームズ・パーク

セント・ジェームズ・パークは、ロンドンにある王立公園として最も古いものです。周辺にあるのは、トラファルガー広場やナショナル・ギャラリー、ウェストミンスター大寺院といった名所や、首相官邸や国会議事堂をはじめとする官庁、そして、バッキンガム宮殿。まさにロンドンの中心地にあります。東京で言ったら、さしずめ日比谷公園といったところでしょうか。

じつは、筆者はかつてこの近くにある職場に通っていたので、ここはまさに「庭」のようなもの。水辺があり、鳥やリスが遊ぶ公園を突っ切って、仕事のおつかいに出かけるのは、とても楽しいことでした。セント・ジェームズ・パークは美しく手入れされた花壇が多く、いつでも花が咲いているので、花の公園のイメージがあります。今回は、春の花木が迎えてくれました。

もともとは湿地の荒れ野だったというこの場所は、16世紀前半にヘンリー8世によって鹿の狩場となります。17世紀前半には、ジェームズ1世によって、なんと、ラクダやワニ、ゾウといった珍しい動物が飼われていました。

17世紀後半、チャールズ2世の時代になると、再計画されて、ぐっと公園らしくなります。木々や芝生が植えられ、今の湖の原型となる運河がつくられて、市民も入ることを許されるようになりました。そして、19世紀前半、名建築家で都市計画を任されたジョン・ナッシュによって、公園は自然主義的な形につくり直されます。直線的な運河はより自然な形の湖になり、ゆるやかに曲がる小径がつくられ、伝統的な花壇は灌木の茂みに変わりました。今ある公園の姿は、その時の設計からあまり変わっていないと言います。ジョン・ナッシュ、偉大ですね!

園内には緑の芝生が広がる一方で、花壇もたくさんがあって、季節ごとに植え替えられます。春の花壇は、やはりチューリップが主役級。

こちらはコントラストのある、かなりパンチの効いた配色です。背景となる灌木の暗い葉色を意識しての花選びでしょうか。

観光客も地元民もほっこり 緑あふれる水辺

テムズ川の方向を見ると、緑の向こうに、観覧車のロンドン・アイが覗いています。都心にこんな豊かな緑があって、そのスペースが市民に開放されているというのは、さすが、園芸大国イギリスならではですね。

セント・ジェームズ・パークの中央には、運河からつくり変えられた細長い湖が伸びていて、この茂みの向こうも湖です。園内のカフェは、緑と水辺、そして、湖の噴水が見られるベストポジションにあります。朝8時から開いているので、まだ静かな時間に景色をゆっくり眺めながら、朝食を楽しむことができますよ。

水辺に生えるのは、白い小花を咲かせるワイルド・キャロット(ノラニンジン)とブルーベル。ずっと昔から自生しているような、ナチュラルな植栽です。

細長く伸びるセント・ジェームズ湖。コブハクチョウやカモなど、17種の水鳥の棲みかとなっていて、身近に観察できます。この時は見られませんでしたが、ペリカンもいます! ペリカンの飼育は、1664年にロシアの大使から贈られたことが始まり。以来、40羽の歴代ペリカンがここで暮らしてきたそうです。

広がる芝生の上では、人々がデッキチェアにもたれて日光浴を楽しんでいます。じつは、このデッキチェアは有料で、1時間で£1.80(約270円)。腰掛けると、どこからともなく係員さんが現れて、しっかり賃料を徴収されるのでご注意を。

ザ・マルを通ってバッキンガム宮殿へ

公園を出て、北側には、アドミラルティ・アーチからバッキンガム宮殿へと続くまっすぐな道、ザ・マルがあります。王室騎兵隊の日々の交代ルートとなるほか、戴冠式や結婚式など、王室の重要な行事の際には、パレードのルートとして使われます。道の先に、遠く宮殿が見えます。

宮殿まで行くと、待っているのはメモリアル・ガーデンズと呼ばれる花壇です。1901年、ヴィクトリア女王の逝去を悼んで、宮殿前に金色の像が載ったヴィクトリア記念堂と、それを囲む半円形の花壇がつくられました。

冬から春にかけての花壇は、チューリップとストックを使った、赤と黄の華やかな植栽です。夏になると、真っ赤なゲラニウムを中心に、オリヅルラン、サルビアなどに植え替えられます。赤い花が選ばれているのは、近衛兵や王室騎兵隊の軍服に使われる赤に合わせるため。世界的に有名な衛兵交代には、そんな配慮があったのですね。

花壇のポイントに、トピアリーがちょこんと生えているのがキュートです。バッキンガム宮殿に向かって右手に、たくさんの大木が葉を茂らせるグリーン・パークが見えてきました。豪華なカナダ門を通って、入ってみましょう。

大木が緑の天蓋をつくるグリーン・パーク

グリーン・パークには、見上げるような大木が立ち並びます。これは、ロンドン・プレーン(和名モミジバスズカケノキ)と呼ばれる、プラタナスの仲間。夏には大きな枝葉を広げて涼しい木陰をつくり、排気ガスの汚染物質を取り除くフィルターの役割も果たして、都市の環境保全に貢献しています。

ロンドンの公園に生える樹木の半分は、このロンドン・プレーンといい、まさに、この町を象徴する樹木です。成木は樹高30mと言うので、ひょっとしたら、まだ大きくなるのかも…!

芝生と樹木ばかりで緑一色。花壇や灌木の茂みはありません。このシンプルさがグリーン・パークの大きな魅力だと、わたしは思うのですが、では、この公園にはなぜ花がないのでしょうか?

一説によると、17世紀、多くの愛人を持ったことで知られるイングランド王、チャールズ2世が、愛人のために公園で花を摘んでいるところを、妻のキャサリン王妃に見つかって、公園から花を一切なくすよう求められたからだとか。

本当の話なら、おもしろいですね。もっとも、春だけは景色が変わります。木々の根元で25万本のラッパズイセンが咲いて、明るい黄色のじゅうたんをつくるのです。この春の風物詩は、訪ねた時には残念ながら終わっていました。

普段は市民の憩いの場であるグリーン・パークは、女王の公式誕生日を祝うパレードなど、国の特別な行事の際には、大砲で祝砲を撃つ会場として使われます。

バッキンガム宮殿のお膝元にある、個性の異なる2つの公園。ロンドンを訪れる際には、ぜひ立ち寄ってみてください。

〈庭園情報 2018〉

セント・ジェームズ・パーク
通年開園、5:00~0:00。最寄駅は、地下鉄セント・ジェームズ・パーク駅、チャリングクロス駅、ウェストミンスター駅。
St. James’s Park, London SW1A 2BJ
https://www.royalparks.org.uk/parks/st-jamess-park

グリーン・パーク
通年開園、5:00~0:00。最寄駅は、地下鉄グリーン・パーク駅、ハイド・パーク・コーナー駅。
The Green Park, London SW1A 1BW
https://www.royalparks.org.uk/parks/green-park

Credit

写真・文/萩尾 昌美 (Masami Hagio)
ガーデン及びガーデニングを専門分野に、英日翻訳と執筆に携わる。世界の庭情報をお届けすべく、日々勉強中。5年間のイギリス滞在中に、英国の田舎と庭めぐり、お茶の時間をこよなく愛するようになる。神奈川県生まれ、2児の母。