日本全国にバラの開花前線が北上し、無数のバラが咲き誇るバラ園見学に出かけるのも楽しみなシーズンですね。バラ文化と育成方法研究家で「日本ローズライフコーディネーター協会」の代表を務める元木はるみさんが関わる川崎市の「生田緑地ばら苑」の歴史と見どころについて、ご紹介していただきます。

2018年で60周年を迎える歴史あるばら苑

東京「新宿駅」から小田急線に乗って急行電車で約25分と、都心から近いにもかかわらず、緑豊かな丘の上にあることから、川崎生田緑地ばら苑は「天空のばら苑」とも呼ばれています。

かつて小田急・向ヶ丘遊園地がこの緑多き多摩区の山の上にできたのは1927年。幼稚園や小学校の遠足先として、また、ファミリー向けの憩いの場として人気を博しました。当時、来訪者を迎えるために入り口斜面につくられた、よく手入れの施された大きな花時計は、今でも訪れた方の思い出の中に残っているのではないでしょうか。

遊園地開園30年後の1958年、東洋一のばら苑としてこの遊園地内につくられたのが、「旧向ヶ丘ばら苑」、現在の「生田緑地ばら苑」です。

1958(昭和33)年といえば、今上天皇陛下と皇后陛下(美智子様)がご婚約された年であり、一万円札ができた年です。また、12月には、東京タワーが完工しました。高度経済成長時代まっただ中、勢いのある時代に、当時の人々にとって繁栄と文明の象徴でもあるモダンなバラたちが集められ、60年の時を経て現在に至っています。

「旧向ヶ丘ばら苑」時代のロイヤルコーナー付近。
「旧向ヶ丘ばら苑」時代の管理棟前にあった水の広場。

ボランティアが支えるばら苑

その後、向ヶ丘遊園地は、2002年3月に残念ながら閉園を迎えますが、ばら苑の存続を求める川崎市民の多くの声によって、川崎市がばら苑の保全をすることになりました。同年4月より、「川崎市生田緑地ばら苑」として多くの市民ボランティアが協力し支えています。

私も、このばら苑の近くに住む市民のひとりとして、6年前から時折ボランティア活動に参加しています。普段は庭のバラと一人で向き合い、全て一人で作業していますが、こちらでは皆で力を合わせ、一緒にバラを育てている一体感が感じられます。剪定、誘引、花がら摘み、草取りなど、地元に暮らすバラを愛する皆さんと一緒に行う作業の時間も、また楽しいものです。

古いばら苑ならではの雰囲気と希少品種を保有

‘コンデサ・デ・サスタゴ’(HT)1932年(西)ドット作出。

60年の歴史あるばら苑ですので、どこか懐かしい雰囲気が漂う苑内では、他のバラ園では見かけないような古い希少種のモダンローズを見ることができます。

‘マグレディース・イエロー’(HT)1933年(英)マグレディ作出。

“ロイヤル“にちなんだバラの品種が充実

‘スルタン・カブース’(Cl)1989年(仏)メイアン作出。

各国の要人にちなんだ名前を持つバラたちが植栽された「ロイヤルコーナー」は、他のバラ園でもよく目にすることができますが、こちらのばら苑のロイヤルコーナーの充実ぶりは、特筆すべきものがあります。

ロイヤルコーナーに植栽されているこの‘スルタン・カブース’というバラは、中東のオマーン・スルタン国の現在の国王陛下の名を冠したバラです。このバラをオマーン・スルタン国駐日大使ご夫妻が見に来られるなど、バラがつなぐ民間国際交流の輪も広がりを見せています。

オマーン・スルタン国駐日大使ハリッド・アルムスラヒ閣下と、バラの育成管理に尽力される川崎生田緑地ばら会・大倉茂会長(右)。

新しいバラや注目のバラ苗も植栽

古いばら苑であっても、各国の新しいバラ、世界バラ会連合選出の殿堂入りのバラなど、常に新しいバラの品種や注目のバラに目を向け、新しく苗を植栽しています。

オールドローズが充実のボランティアガーデン

ボランティアガーデンには、オールドローズが多く植栽されています。その結果、モダンローズが多い生田緑地ばら苑の品種のバランスを保つことに繋がっています。モダンローズのルーツを探ることはオールドローズを知ることでもあり、原種のバラへたどり着くことでもあります。バラの歴史は、壮大なストーリーを秘めていることに、来訪者が気づけるような、さりげない工夫でもあるのです。

簡単ではありますが、川崎市の生田緑地ばら苑の見どころをご紹介させていただきました。

こちらのばら苑では、春と秋のバラの開花シーズンのみ一般公開を無料で行っています。

いよいよ、今年の春の一般公開の日が近付いてきました。

2018年春の一般公開は、5月10日(木)~27日(日)です。*公開中休園日無し

最寄駅:小田急「向ヶ丘遊園」駅南口より徒歩約20分
住所:川崎市多摩区長尾2丁目8番1号ほか(旧 向ヶ丘遊園内)
詳細はhttp://www.ikuta-rose.jp/をご覧下さい。
公開中は、バラの講習会、ボランティアによる庭園ガイド、庭園での演奏会等が開催予定です。(雨天中止の場合有り)

Credit

写真&文/元木はるみ
神奈川の庭でバラを育てながら、バラ文化と育成方法の研究を続ける。「日本ローズライフコーディネーター協会」代表、公益財団法人日本ばら会評議員で上級指導員。近著に『アフターガーデニングを楽しむバラ庭づくり』(家の光協会刊)など。
http://roseherb.exblog.jp