花や緑に親しみ、季節感に溢れる暮らしを訪ねる「私の庭・私の暮らし」。今回は住宅街の限られたスペースでバラやクレマチスを立体的に仕立てる個人邸をご紹介。つるバラを魅力的に咲かせるために屋根をつくり替えた、東京・菊池さんの庭です。

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公道に面した塀にしだれ咲くのは、花径1〜2㎝の小さな花が愛らしいミニバラ‘ピンク・スプレー’と‘のぞみ’。菊池邸の庭の入り口の目印的存在。

庭づくりを始めて約20年になる菊池美紀子さん。一年のうちで花の見頃を迎える早春と初夏に、友人・知人を招いたオープンガーデンを始めて、2018年で6年になります。早春は、シェードガーデンにコレクションされたクリスマスローズが主役です。2〜4月までと花期が長いクリスマスローズが咲き終わると100種を超すバラに主役がバトンタッチして、庭は彩り豊かになります。

受け付けをすませ庭へ進むと、赤いバラ‘チェビー・チェイス’が縁取るアーチが奥へと誘います。

シェードガーデンをつくろうと、クリスマスローズや山野草の苗探しからスタートしたガーデニングも、夢中で続けているうちに栽培知識と経験が身につき、庭談義ができる友人も増えていきました。庭好きの友達の中には、バラに夢中の人もいて、「菊池さんは、なぜバラを育てないの?」と疑問に思われたことがありました。もちろん、バラは魅力的で育てたい気持ちもあったものの、仕事や子育て、家のことと並行してやることを増やしてしまうと、自分がパンクしてしまうのではという思いから、見て見ぬふりをしていた時期があったといいます。

バラが咲く頃、外壁や木を登るようにつるを伸ばして開花するクレマチスも多種栽培。写真左は、チューリップのような花形の‘サー・トレボー・ローレンス’、右は‘アフロディーテ・エレガ・フミナ’。
軽やかに葉を伸ばし、蝶が舞うように花を咲かせるのは、クレマチス‘アルバ・ラグジュリアンス’。

ガーデニングを始めて5年が経った頃、菊池さんに転機が訪れます。それは、尊敬していた父親が他界するというショッキングな出来事でした。その事実を受け入れられず何も手につかない日々を過ごすうちに、心の穴を埋めるようにバラを植えようと決意します。

1本も育てたことがないバラを庭に植えるにはどうすればいいのか、友人のアドバイスで、日本最古のバラ専門店として知られていた東京・目黒区にある「駒場バラ園」に何度も通いました。すでにいろいろな植物を育てていましたが、バラについては系統も知らなかった菊池さんは、「駒場バラ園」の嘉代さんに「華やかな大輪は好きではなく、一重か小輪、半つる性か、つる性で壁などに誘引して咲かせたい」という希望と、栽培環境などを伝えて何株かのバラを選んでもらいました。

そうして15年前に選んでもらったバラは、‘バフ・ビューティ’や真っ赤な‘ダスキー・メイデン’、‘グリーン・スリーブス’など。今も庭で立派に育っているといいます。

大工さんに依頼して2年前に完成したツリーハウスに上ると、建物の屋根に到着。屋根の上につくられたデッキをぐるりとつるバラが囲む特別な空間に、訪問客もビックリ。
公道から見上げると、刈り込まれたキンモクセイの葉の間に見えるのがツリーハウスです。右手には屋根を覆うようにロサ・ムリガニーが満開に。

「バラがこんなに成長する植物だとは知らない超初心者の私に、的確なアドバイスをしてくれた駒場バラ園の嘉代さんには今も感謝しています。おかげで、いい場所に植えることができたし、こうして長年枯らさずに育てることができたんです」と菊池さん。

バラの魅力を知るうちに、屋根を覆うようにつるバラを咲かせてみたいと、一重の白花が咲く品種を自ら選びました。それはロサ・ムリガニー。花つきがとてもよく、1年で5mも伸びる伸長力が旺盛なつるバラです。

平屋の離れの屋根の上の風景。向かいに見えるのが、菊池邸の母屋です。周囲には高い建物がなく、一日中日が当たるというつるバラ栽培には最高の環境。
屋根の上のデッキを囲むフェンスにもつるバラが絡み、淡いピンク花の ‘ブラッシュ・ランブラー’と鮮やかな赤花の‘チェビー・チェイス’が競演。

ロサ・ムリガニーの長尺苗を建物のそばに植えてから、思い描いた風景に近づけようと、屋根をつくり替える計画も進めました。既存の屋根の形は片流れだったため、四角錐の屋根を建物の上に乗せるという大掛かりなリフォームをしながら、つるを目標の高さまで伸ばし続けて10年余り。

時間はかかりましたが、三角屋根を360度、白バラが一面に咲く景色は大迫力。屋根に咲くバラを間近で見られるようにと、庭から屋根に上れる階段も設置。ただ階段をつくるだけではなく、菊池さんのアイデアで憧れのツリーハウスも大工さんに依頼してつくりました。

屋根から少し見下ろす位置にあるツリーハウスにも、バラを絡めて可愛らしい風景に。

毎年、屋根の上で見事に花を咲かせるためには、冬の間の剪定と誘引の作業が必要不可欠です。作業は年が明けてまもない1月中旬の寒空の下で、数日がかりで行います。ガーデナーと友人に手伝ってもらいながら、一度つるを屋根から外して、よい枝、古い枝を見極めて仕立て直すのは大仕事です。でも、「初夏の見事な景色を思い浮かべれば、力が湧いてくるから不思議ね」と菊池さん。

屋根一面に誘引されたつるから、3月には新芽が吹き、5月には無数の蕾を膨らませると、待ちに待ったバラの季節の到来です。屋根が無数の白花に覆われる見事なバラの風景は、菊池さんをはじめ、オープンガーデンを訪れたお客さま、そして道ゆく人を笑顔にします。

バラの中でも遅咲きのロサ・ムリガニーは、例年5月下旬ごろに満開を迎え、菊池邸のオープンガーデンの最終日を飾る大トリの見せ場になります。花の季節を終えた一季咲きのロサ・ムリガニーは、秋には真っ赤なローズヒップを実らせます。バラ栽培は数が多ければ多いほど、花がら摘みも大変な作業になりますが、花がらが摘み取りにくい場所にローズヒップが実る品種を選んだ菊池さんのアイデアに脱帽。

ガーデニングって、とてもクリエイティブな趣味だと菊池さんに教えていただきました。

ツリーハウスの屋根にもローズヒップが実って、まるでおとぎ話の一場面のよう。

菊池さんが丹精する早春の庭はこちら。
「私の庭・私の暮らし」クリスマスローズのオープンガーデン 東京・菊池邸

Credit

写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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