緑の美しい季節になりました。お散歩へ出かけましょう。ポカポカ陽気のもと、美しい景色のなかを歩けば、心配ごともいつの間にか忘れてしまいます。「さて、どこへ?」と行き先に困ったときには「フットパス」がおすすめ。フットパスとは、里山のなかの散歩道。今回は東京都町田市の小野路(おのじ)を歩いて、春の山野草と筍掘りを楽しみます。多摩丘陵を中心としてフットパスを整備している「NPO法人みどりのゆび」が案内してくれます。

「フットパス」とは、「快適な緑の散歩道」のこと。地図には載っていないけれど、里山のなかには昔ながらの道がたくさん残されており、そこには緑豊かな田園風景が広がっています。国道や県道など往来の激しい一般道とは異なり、また登山道のような険しさもないフットパスは、季節の草花を愛でながらのんびり歩くのに最適な散歩道です。でも、土地の人でないとどこから入ってよいのか分からなかったり、どこへ通じているのか分からないまま歩くのも不安です。

みどりのゆびが整備している道標。海外の人にも日本の田園風景を楽しんでもらいたいと英語も併記。

「NPO法人みどりのゆび」は、そんな野道をフットパスとして整備し、土地に明るくない人も安心して歩けるように道標を立てるなどの活動をしています。活動の中心地は、多摩丘陵にある小野路。鎌倉街道の喧騒を少し脇に入ると、そこには幕末から変わらない、手つかずの里山の風景が広がります。ここには歴史上空白となっている義経の数年間の足跡を辿る伝説が多く残るほか、新撰組が江戸との間を通った布田道も、当時の面影のまま残されています。新宿副都心から30分ほどのところに、昔さながらの景観とともに里山の人々の生活がいまだ色濃く残る小野路。フットパスの整備は、この“ふるさと”の貴重な風景を守り伝えていく町づくりの活動でもあります。「みどりのゆび」では、多くの人にこの美しい風景を楽しんでもらうために、フットパスの散策ガイドマップを作成するほか、ガイドウォークや季節に合わせたイベントなどを開催しています。

小野路には美しい田園風景が残されている。
みどりのゆびで管理している竹林。

筍掘りは、毎年春の恒例行事。竹の成長は驚くほど早く、人が手を入れずに放置しておくと周囲の雑木林を侵略してしまうため、「みどりのゆび」では参加者を募って小野路の中の竹林を定期的に手入れしています。春の筍掘りも、そうした大切な手入れの一つです。竹林を目指して野道を歩いて行くと、道すがらにスミレやチゴユリ、ニリンソウなど、春の山野草がたくさん咲いています。花に詳しくなくても、植物や自然に精通した「みどりのゆび」メンバーが解説しながら歩いてくれるので、里山のいろいろな花の名や鳥の名、虫の名を知ることができます。ちなみに「みどりのゆび」には、他にも歴史に詳しい人、生物に詳しい人、天体に詳しい人、料理に詳しい人など多彩なメンバーが揃っており、その場所にまつわるいろいろな話を聞かせてくれます。一人歩きも悪くはありませんが、そんな“お散歩プロ”たちと歩く野道は、とても充実した豊かな時間です。

左からチゴユリ、ナルコユリ、ニリンソウ。春の愛らしい山野草がたくさん見られる。
左からウラシマソウ、ハルリンドウ、スミレ。

 

筍を傷つけないように、周辺を広く深く耕すように掘っていきます。一般参加の小学生の女の子。

竹林に到着したら、さっそく筍を探します。地面に顔を出しているものはすぐに見つかりますが、足の裏の感触を頼りに、地中の筍も探します。発見したらクワやスコップを使って筍を傷つけないように掘り上げます。筍はだいたい30〜40㎝は土に埋もれているので、周囲の土を広く深く掘りますが、まっすぐ生えているものばかりではないので、手で土を搔き出したりと、なかなか苦労します。でも、汗をかいた分だけ、その後の昼食は格別の味わいです。掘り立ての筍を炭焼きにした焼き筍や筍汁など、新緑の中で味わう旬の味は最高の贅沢。残りの筍は参加者全員で山分けに。こうした里山の食や生活文化を体験できるのも、フットパスの醍醐味です。

大きな筍がたくさん採れました。
みんなで昼食の準備。
掘りたての筍を使った筍汁やおこわ、筍の炭焼きなど、筍づくしのご馳走。
竹林の中で炭焼きの跡地によく生えるアミガサタケを発見。海外ではモリーユと呼ばれ、人気の食材。
ブルーベルが咲く英国のフットパス。Photo/Jo Jones/Shutterstock.com

もともとフットパスは、「散歩」という概念をつくった英国が発祥の地。英国には農場の中や貴族の庭園など、私有地であっても、「フットパス」の標識があれば誰でも歩いてよいことになっています。英国のフットパスは、歩行者専用の「パブリック・フットパス」や、馬や自転車に乗っても通れる「パブリック・ブライドルウェイ」などに分けられます。地図にも記載されており、上手に使えば車で公道を走るよりずっと近道になるところもあります。そして、なんといってもフットパスの楽しみは、美しい田園風景。ブルーベルやバターカップ、レースフラワーなどがどこまでも広がり、その花の中で時折、野ウサギたちが跳ねたり、キツネの子がじゃれ合う姿も見られます。まるで童話の世界に入り込んでしまったかのようなその景色は、たまたま残っているのではありません。英国ナショナル・トラストなどに代表されるように、美しい田園風景に大きな価値を置き、残していこうという人々の強い意思によって守られてきたのです。

草を食む野ウサギ。Photo/Alessio Mazzantini/Shutterstock.com

今、日本でもフットパスは全国的な広がりを見せており、小野路以外にも北海道や山形県、山梨県などで道の整備が進んでいます。グーグルカーも通れない、衛星写真にも写らない道を整備し、地図をつくるのは簡単なことではありませんが、美しい風景をずっと残したいという人々の意思によって、手によって、フットパスは少しずつその距離を伸ばしています。誰でもこの活動に参加できます。それは歩くこと。春のお散歩に出かけたいなぁと思ったら、ぜひフットパスを検索してみてください。そして、お散歩のプロたちとフットパスを歩いて日本の美しい田園風景を楽しんでください。

Information

【みどりのゆび・筍の伐採と整備】
『フットパス専門家講座:春の緑地イベント』
(*お問い合わせのうえ誰でも参加可)

【日時】4月14日(土)、22日(日)、28日(土)集合10時
【集合場所】小野路「別所」バス停
【会費】500円
【持参】おにぎり・軍手
【講師】みどりのゆび

集合は別所バス停ですが、みどりのゆびの管理地を知っている方は、みどりのゆび竹林にお集まりください。毎年恒例の筍堀りです。汗を流した後、お昼は筍のさしみ、筍のたき火焼き、筍汁と筍づくしを楽しみます。おにぎりだけ持ってきてください。その他、おやつや軽食などを持ち寄って、若い緑の春の里山を堪能しましょう。

【メール】info-m@midorinoyubi-footpath.jp
【電話】042-734-5678
【HP】http://www.midorinoyubi-footpath.jp/event/eventschedule.html

Credit

写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。