「庭をつくりたい」と思ったとき、さて何から始めたらよいものか、戸惑いますよね。どんな植物を使って、どんなデザインにすれば理想的な庭ができ上がるのか? そこで、今回はプロフェッショナルはどんな風に庭をデザインしているのか、造園家の阿部容子さんにお話を伺いました。プロの仕事には、私たちが庭づくりをするうえでも、たくさんのヒントがありますよ。

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私がガーデンデザインを始めるとき、まず最初に考えることは、シチュエーションです。どんなデザインにするのか、どんな植物を使うのかは、これからつくる庭のシチュエーション、つまり状況をしっかり理解・把握してからの話。逆に状況を把握しないと、図面を引くことも、植物を選ぶこともできません。

状況を理解するためには、デザインを始める前に、もちろん現場に足を運びます。また、依頼主との会話から「この庭に望まれていること」の情報をどれだけたくさん引き出すことができるかが、ガーデンデザインをするうえで最も重要なことで、工夫を凝らす面白さもあります。

依頼主の「こんな花が咲く、こんな庭が欲しい」という希望を叶えるだけでは私の仕事は意味がないと考えています。その人にとって本当に心地よい庭をつくるためには、依頼主によって語られる趣味嗜好の希望以上の情報を拾い上げ、ガーデンデザインに「機能」として落とし込んでいくのがプロフェッショナルの仕事だと考えています。私は、デザインで最も重要なことは、機能だと考えています。そして当然、ガーデンデザインにおいては、絵画的な美しいビジュアルも機能の一つであり、大前提として不可欠な要素です。

そんなわけで、私はいつもできるだけその家の人とコミュニケーションをとって、仲良くなることを心がけています。面白いことに、何度か通ってお話ししているうちに、ご本人も意識していなかった希望や心配ごとなどがポツポツと出てきて、それがデザインのきっかけになることが大いにあるからです。

さて、ガーデンデザインをするために、必要な状況把握、情報にはどんなものがあるのか、具体的にお話ししていきましょう。

阿部さんがデザインした個人邸のハーブガーデン。

① ガーデンを使用する時間帯

その庭は、主に夜間に使われるのか、それとも日中使われるのでしょうか? それによって、選ぶ植物は変えるべきです。なぜなら、植物によっては夜には人の目ではほとんど認識できない色があるからです。「濃い青」、「紫」、「赤」は、夜間はほとんど黒に見え、植栽しても効果を発揮できません。日中は仕事で誰もおらず、仕事から帰ってきて夜に眺めてホッとしたいというシチュエーションの場合には、夜の暗さのなかでも認識できる「黄緑」、「黄」、「白」などの明度の高い植物を選びます。ただし、ライティングを施す場合にはその限りではありません。逆にライティングをすると黄色の植物はほとんど白に見えるので、状況による見え方の違いを意識することが大切です。

夜の庭では黒く見えてしまう花色。Photo/fotohunter、PavlovaSvetlana、Tepikina Nastya/Shutterstock.com
日の光がない夜の状態に近づけるために、写真ソフトの「明るさ」を最低値まで落とすと、上の写真はこんな風に黒く見える。
明度の高い白や黄色の花々。
写真ソフトの「明るさ」を最低値まで落としても花が認識できる。

② ガーデンを使用する人(動物)の事情

さて、主に日中使用される庭だからといって、色づかいは自由でよいのかといえば、そうではありません。庭を使う人の趣味嗜好を反映することも大事ですが、庭を使用する人の身体的な事情によっても色づかいは配慮する必要があります。

例えば、弱視の方や視力が弱ってきた年配の方にとって、最も認識しやすい色は黄色です。また、香りのよい植物でアプローチをするなど、使う人の状況を考えれば、最適な植物は自然に浮かび上がってくるはずです。

触れると香りが立ち上る紫色のキャットミント。ベンチの頭上には甘く香るハニーサックル。Photo/Del Boy/Shutterstock.com

色は他にもさまざまな身体的影響を及ぼすのですが、それはまた別の回に詳しくお話しするとして、他にも身体のことで気をつけなければならないことがあります。私はいつも依頼主に「いつも飲んでいるお薬はありますか」と聞いています。そこに肝臓の薬が入っていた場合には、肝臓に負担をかける可能性がある薬剤散布の必要な植物を使うのを避けます。また、ペットが庭にいる場合も同様の配慮が必要です。

他にも動物の行動パターンを知っていると、デザインに生かすことができます。「野良猫が入ってきてオシッコをして芝生が枯れた」という悩みをしばしば耳にすることがありますが、野良猫の悩みを抱えている場合には、猫のヒゲの距離にちょうどぶつかるくらいの間隔で植栽します。というのも、猫のヒゲには多数の神経が集中しており、左右のヒゲの先端で距離を測り、身体がぶつからないようにセンサーのような役目をしているからです。ヒゲが植栽に触れれば、障害物があると認識して猫は庭に入りづらくなります。

Photo/Hayk_Shalunts/Shutterstock.com

③ 近隣への配慮

  • トゲのある植物は怪我トラブルの元になりかねないため、隣家との境になるフェンス際には植えないようにします。
  • 地下茎で増えて旺盛に茂る植物は、隣の土地を侵略する可能性があるので地植えは避けます。種類は以下の記事をご参考に。「ガーデンに一度植えたらどんどん増殖!? はびこって困る5つの植物
  • 花粉の多い植物にも注意が必要です。花粉といえばスギが代表的ですが、人によってはユリ科の植物に反応が出る場合があります。ガーデンでよく使われるチューリップやギボウシもユリ科の植物ですので、依頼主や隣家の人にアレルギーがあると分かっている場合には配慮します。
カラーリーフとして重宝するギボウシ(左、Photo/Mariola Anna S/Shutterstock.com)と、夏のガーデンで活躍するユリ(右)。花粉に反応する人もいる。

④ 環境への配慮

個人邸の場合、庭はプライベートなエリアですが、公道と接する場所はデザイン上ではパブリックな視点での配慮が必要です。道路側に暗い色の植物を植えると視界が悪く安全性に欠けるため、道路側には明るい色の植物を選んで安全性を確保します。

また、屋上ガーデンやベランダなどの場合、真夏の直射日光を浴びたアスファルトや壁の温度は60℃近くまで上がります。植物にとってはもちろん、人にとっても非常に過酷な環境になるので、デッキを敷くなど、まず環境改善が必要なケースもあります。

阿部さんが施工した愛知県の病院の屋上ガーデン。温度上昇を防ぐために全面にデッキを敷いてある。

現場での情報収集から課題を見つけ、それをデザインに落とし込むのがガーデンデザインのスタート地点。当然ですが「状況」は一件一件違うがゆえに、庭は全てオーダーメイド。次回は実際に施工した実例を見ながらお話しします。

Information

この記事は2018年2月7日に開催された「ユニソン ガーデンエクステリア コミュニティ」デザインスキルアップセミナー第2弾『植栽デザインをグレードアップ』の造園家の阿部容子さんの講演をまとめたものです。
ユニソン http://www.unison-net.com

Credit

アドバイス/阿部容子

ガーデンデザイナー・造園家。岐阜県可児郡「かたくり工房」に所属。モデルガーデンのガーデンカフェ「ガズー(Garzzz)」を拠点とし、公共、企業、個人の庭を全国各地でデザイン、施工。ぎふ国際バラコンクール審査員として岐阜県「花フェスタ記念公園」でも活動。アメリカ園芸療法協会会員として米国のカンファレンスで学んだ知識や技術を活かし、病院のガーデンも施工しています。

かたくり工房/岐阜県可児郡御嵩町伏見747 TEL:0574-67-6633
http://www.katakuri.co.jp/

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